抄録
ヒノキ林流域の水流出過程における土壌撥水性の影響を検討するために,撥水性の測定,斜面での浸透強度測定,林床被覆の異なる小プロットでの表面流観測,大プロットでの表面流観測,渓流水量観測を行った.その結果,ヒノキ林表層土壌の撥水性が表面流発生の一因となり,土壌水分に依存する撥水性の強度により表面流出量が変動することが示された.降雨中には撥水性が徐々に弱められ,それに伴う表面流出量の減少と雨水の鉛直浸透の形態が変化した.また小プロットと大プロットの比較から,大プロットでは表面流の流れが不連続となり,観測スケールが大きいほど表面流出量が小さくなることが明らかとなった.さらに流域スケールでは,斜面下部において浸透が卓越するために降雨流出に対する表面流の寄与は小さく,流域スケールでは土壌撥水性の降雨流出に対する影響は小さいことが示唆された.