抄録
それまで不明瞭であった土壌水の化学ポテンシャルを理論的に明らかにし,そのエネルギー状態を示した岩田論文を紹介した.まず,理解の手助けのため,関連する熱力学的知識について述べた.土壌水の化学ポテンシャルは,重力,静電気力,ファンデルワールス力,溶質濃度,表面張力,内部圧,外部圧によって決まり,それぞれの寄与分を加算して与えられる.平衡状態においては,化学ポテンシャルはすべての位置で等しいが,それらの寄与分は,土粒子表面からの位置によって大きく異なる.また,1963年に国際土壌学会が提起した,土壌水ポテンシャルの定義に対して誤りを理論的に指摘している.モンモリロナイトに対する水分子の吸着モデルを提案し,粘土粒子近傍のイオン分布を示した.そして,吸着水分子の化学ポテンシャルの理論値を計算し,実測値と良く一致することを示した.