抄録
本稿では,海岸帯水層における海水と淡水地下水の相互作用に関し,塩水侵入と地下止水壁設置に伴う塩水動態を取り上げ,最近の論文における室内実験と数値解析の結果に基づいて解説を加えた.特に,多孔質媒体中の微視的分散スケールである横分散長が塩水の希釈,排除に影響を及ぼし,横分散長を過小評価すると塩水塊の排除時間が過大評価されることを示した.また,ここでの解析の特徴は,塩水の密度変化を想定しており,従来の密度効果を無視した多孔質媒体中での溶質輸送解析では対応できない密度依存型移流分散現象である.土壌物理学分野では,例えば,根群域での高濃度の塩類集積問題への適用が考えられる.今後,地下水学と土壌物理学に共通する移流分散溶質輸送現象として,物理モデルと数値モデルの両面から,さらなる科学的知見の蓄積を期待する.