2019 年 141 巻 p. 19-29
必須元素の鉄は地球全重量の 30 % 程度とありふれた物質でありながら,海洋ではサブ nmolレベルでしか存在せず,大気および河川を介して陸域から供給されている.そのため,陸域の鉄動態、殊に土壌中での挙動を理解することは極めて重要な研究課題である.土壌における溶存鉄生成メカニズムおよび 凍結融解が溶存鉄生成に及ぼす影響に関する既往知見より,(1) SOM(Soil Organic Matter)と土粒子を 構成する鉄とが連成的に挙動すること,(2) 特に凍土の凍結融解下では,融解層厚が溶存鉄生成量に影 響を及ぼしうることがわかる.また,アムール川流域においては,1990 年代後半における溶存鉄濃度の異常な上昇が観測され,凍土融解がその要因の一つである可能性がある.現場観測と長期の凍土融解層 厚の変動解析はその可能性を支持している.既往の研究を踏まえて、鉄と錯形成する有機物の類型化,凍結融解時の鉄,溶存有機物の挙動把握が重要であることを示した.