抄録
蚕の前部絹糸腺では吐糸開始よりトレラーゼ活性が急激に上昇する。これまでに、本酵素は分子量が83kDの単量体酵素であることが判明しているが、その生理的役割については明らかではない。そこでこの点を明らかにするため、トレハラーゼ阻害剤であるバリドキシルアミンA(VAA)の絹糸腺トレハラーゼ活性に及ぼす影響について検討した。まず、VAAの影響をin vitroで検討したところ、0.1μg/200μlで約90%の活性が阻害された。次に、吐糸開始3日前にVAA(0.1-10μg/頭)を経皮投与し、その後の絹糸腺のトレハラーゼ活性を日毎に測定した。その結果、トレハラーゼ活性はほとんど阻害されなかったが、吐糸開始後の吐糸量はVAAの投与量の増加に伴って減少し、中部絹糸腺に液状絹が貯留した。一方、吐糸直前にVAA(0.5-10μg/頭)を投与したところ、投与1日後ではトレハラーゼ活性が阻害され、吐糸量も対照区に比べて少なかった。以上の結果から、前部絹糸腺でのトレハラーゼは吐糸に関与しているとともに、VAAはトレハラーゼ活性阻害のほかに絹蛋白質の絹糸腺での貯留といった多面的な作用を引き起こすことが分かった。