抄録
試験管内でみられるEA4とPINの相互関係を生体内での現象と比較検討し,PINの作用機構から休眠時計を考察した.
カイコC108号休眠卵を用い,まず休眠間発達期間を明らかにした.卵を産下後の種々の時期に5℃冷蔵したところ,遅く冷蔵するにしたがって休眠間発達期間は長くなったが,産下12日後以降の冷蔵ではその延長は見られなくなった.冷蔵開始直前の卵から精製したEA4のATPase活性発現までの時間も,遅い冷蔵卵のものほど長くなったが,産下12日以降ではその延長はなかった.活性発現時期は休眠間発達完了期直前に相当し,試験管内でEA4とPINとを混合した先の演者 蹄の結果と対応していた.EA4-PINは,25℃で複合体を形成したが5℃ではなく,KD値は25℃での約104nMに対して,5℃では約107nMであった.EA4の時間情報はN末領域構造中にあり,N末領域に糖鎖が付加して時間よみを調節し,PINもこの領域で結合する可能性が示された.
PINは,EA4のN末領域の立体構造変化を夏の温度において引き起こし,休眠時計を形成することが示唆される.