社会福祉学
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Print ISSN : 0911-0232
論文
母親が加害者となった「心中による虐待死」事例の家族危機形成プロセスの検討――母親が経験した「喪失体験」に注目して――
西岡 弥生
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2019 年 60 巻 1 号 p. 17-32

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抄録

本研究の目的は,「心中による虐待死」事例の家族危機形成プロセスを検証することによって,加害者とされた母親の「喪失体験」を明らかにすることである.具体的には,自治体報告書で報告された9事例を対象に,心中が企図されるまでの家族の生活状況を二重ABC-X理論を援用し検討した.家族は【前危機段階】で,すでに不安定な生活基盤と脆弱な家族機能の状態にあった.【危機発生段階】で母親は既存の役割を失い,【後危機段階】では母親を支える重要な家族成員や日常生活の安全感,さらに関与のあった支援機関等の間での社会関係を失うという複数の「喪失体験」にみまわれていたことが示された.喪失の累積によって母親は「悲哀の病理」に陥り,認知が閉塞した状況で「心中」を企図したものと推察された.母親の精神の危機は虐待の定義では捉えきれず,社会生活が困難な母親の状況と支援者側の認識との間に齟齬が生じ見過ごされた可能性が高いと考えられる.

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© 2019 一般社団法人 日本社会福祉学会
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