2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s152_2
妊娠出産は腎移植がもたらす大きな恩恵の一つで、性ホルモン異常の改善をもたらして妊孕性の回復が期待できる。1958年に世界初の腎移植後の妊娠出産例が報告され、本邦では1977年に報告され、いまや腎移植を受けた生殖年齢期の女性患者の約10%が妊娠を経験しているとされている。しかし、移植腎は片腎状態で平常でも過剰濾過の傾向にあり、妊娠による循環血液量の増加はさらに過剰濾過を助長して移植腎傷害に至るリスクがある。移植腎傷害は体液貯留を招き、ベースとなる妊娠による循環血液量の増加と相まって妊娠高血圧症候群や子癇などの母体への影響を及ぼす。母体の影響は胎児にも影響して、流産や早産のリスクを高める。その上で、流産や催奇形性のある免疫抑制剤を妊娠中も併用せざるを得ないのが問題となる。周産期を安全に管理するために、移植腎の状態、併存疾患や服薬状況に制限をもうける妊娠許可基準を含んだガイドラインが欧米で作成され、本邦でも2021年に日本移植学会が中心となってガイドラインを作成した。移植腎、母体や胎児への影響などの腎移植後妊娠出産の現状を踏まえ、腎移植後の妊娠許可基準、周産期の管理を中心に生体腎移植ドナーの妊娠出産についても言及した腎移植後妊娠出産ガイドラインを解説する。