2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s196_2
本邦の肝移植は生体肝移植の手技に基づいて発展しており、私自身の肝移植手技も成人生体肝移植術のそれが原点である。生体肝移植では部分肝であるがゆえに、再建する脈管が細径・短小のため様々な工夫を要し、術後管理も困難なことが多い。私が考える高難度肝移植は二分される。第一に手術手技的に困難な症例、第二に術前術後管理が困難な症例である。まず手技的に困難と考えるのは、グラフトに破格がある場合(門脈、動脈複数開口、胆管3穴以上)、胆道閉鎖症キャリーオーバー症例、メジャー肝切除後の肝移植、高度門脈血栓症、再肝移植などである。解剖学的破格に対しては肝胆膵外科、マイクロサージェリーの手技を駆使して克服する。葛西手術やメジャー肝切除後に肝硬変肝不全に進行した症例では、肝の線維化とともに周囲の癒着も強固となり、大量出血や剥離困難に陥ることが多い。高度門脈血栓症例における門脈再建や再肝移植の肝全摘も高難度肝移植となる場合がある。次に生体肝移植においては、術前術後管理困難症例との対峙も重要である。豊富な経験と知識に基づいたレシピエント管理なくしては救命し得ない症例は多い。いわゆるACLFのように肝不全に加えて腎不全、呼吸不全を併発する多臓器不全患者の移植前後管理、周術期ECMOを要する症例、術後大量胸腹水症例、難治性拒絶症例などがそれにあたる。近年の当科の肝移植成績は1年生存率97%に到達しているが、さらなる短期成績の向上のためには、これら管理困難症例の克服が肝要と考える。今回の発表では、私が経験した印象深い高難度肝移植症例を手術動画や画像とともに供覧する。