2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s275_2
移植医療には一般国民の理解と協力が必要であるが、日本では移植の話題は冷え切っている。救急医療側には、提供者と共に移植待機者を救う職務の認識が未だ薄く、学会は移植医療を支援はするが推進する立場にはないと明言している。筆者は脳神経外科医師の立場で臓器提供の啓発活動を16年間展開する中、移植医療の機運を温め直す根本的手段に思い至った。それは、日本赤十字社が「献血にご協力お願いします」と求めるのと同様に、移植関連学会やネットワークが社会に「臓器提供にご協力お願いします」と臆せず願い求めることである。現行の啓発手法は、人の心中を過剰に忖度し、選択肢提示は提供への誘導になるなどの負の同調圧力に屈し、ドナー不足は説明しても臓器を提供して欲しいとは口に出せず、社会に忖度を求めている。しかし被災募金や献血のような明確な願いや求めは、迂遠な唆しや誘導ではない。そして国民は求められて初めて提供を前向きに考える。諸外国のオプトアウト制度などは国や学会の積極性を示し、国民もそれに反応する。日本でも、移植医療側が勇気を持って「臓器提供を前向きに考えてほしい」の熱意を発して世間を温め、救急医療側にはプロ意識に基づいた提供推進へと態度を変えさせたい。 参考論文:吉開俊一. 日本の医学界に内在する臓器提供の発展への問題点. 移植 2022; 56: 425-428