移植
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肺移植に携わって
有賀 希伊達 洋至梁 泰基小林 萌松本 瞭高橋 守西川 滋人田中 里奈豊 洋次郎大角 明宏中島 大輔濱路 政嗣毛受 暁史
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2023 年 58 巻 Supplement 号 p. s219_1

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抄録

学生時代のアメリカ短期留学で経験した肺移植手術が忘れられず、移植医療の現実を知るため、京都大学呼吸器外科で後期研修を開始した。普通の呼吸器外科手術ではお目にかからない解剖や術後管理は、今後の医師人生に大いに役立つと思う。また、通常の手術に加え、予想を上回る移植件数(昨年度担当したのは8例)と、日夜休日問わず行われる手術、移植登録評価の実際を経験している。感心する点も多い一方、まだ医師になる前の世間の考え・倫理観を覚えているせいか、課題や疑問を抱く場面があるのも事実である。内科的治療で改善の見込みのない患者様が、呼吸器や酸素投与が不要になって退院するのを見ると、肺移植は極めて前向きな医療で、件数増加は喜ばしい。しかし、主治医・担当医をはじめ、関係者の奉仕の精神に依存して成立していると言わざるを得ない現状を変えない限り、十分な治療や管理にも限界があり、この先の肺移植件数増大に対応しきれないと感じる。私個人はさておき、医療者一人一人の負担・長時間の拘束は、世の潮流に逆行しており、女性医師や若手離れに繋がり兼ねない(無論それを好む者もいるが)。家庭や個人で考え方は様々であろうが、自分や家族のために十分な時間を持てる心の余裕がないと、本人ないし家族からの不満や精神・身体的負担で移植医療から離れざるを得なくなる。肺移植が治療の素晴らしい選択肢になり得るからこそ、管理システムの再構築を要する。

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