熱帯農業
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バングラデシュ産浮稲品種における同位酵素遺伝子型, 籾型および籾のフェノール反応の関連性
井之上 凖萩原 俊昭
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1982 年 26 巻 2 号 p. 68-73

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抄録

アジアの浮稲 (Oryza sativa L.) のうち, 酸性フォスファターゼおよびパーオキシターゼ同位酵素の遺伝子型が最も多様性を示すバングラデシュ産の品種について, 同位酵素遺伝子型と籾型, 籾のフェノール反応, ならびに短日下における主稈葉数および伸長節間数の関連性について調査した.供試した浮稲150品種は深水処理によって幼穂分化以前に節間伸長が起ることが認められた品種である.
同位酵素遺伝子型による品種の類別は前報の結果に基づいて行った.また, 籾型による類別は松尾の基準に従って行い, 籾のフェノール反応については, 1%溶液に24時間 (30℃) 浸漬したのち調査した.なお, 短日は8時間日長とし, 日長処理は出芽直後より出穂まで行った.
1.酸性フォスファターゼおよびパーオキシダーゼ同位酵素遺伝子型によって類別すると, Acp1-4Px24cは39品種, Acp19Px20は30品種, それらの組換え型は81品種であった.ところが, 籾型については長粒品種が130, 短粒品種が16, 大粒品種が4であった.また, フェノール反応については頴が黒紫色に染まる品種146, 染まらない品種4であった.
このように, バングラデシュ産の品種の多くはフェノール反応 (+) で長粒であったが, Acp19Px20に属する品種には短粒のものが多く, 中にはフェノール反応 (-) の品種もみられた.従来の品種群分類の基準にもとづけば, 後者は日本型に近い品種であろうと思われる.
2.Acp19Px20の遺伝子型品種は他の遺伝子型品種に比較して, 短日下における主稈葉数および伸長節間数が多かった.このことも品種群分類上特異的であり, 日長性が類似している品種間では, 主稈葉数および伸長節間数が多い品種ほど水深に対する適応性が大きいと考えられる.
3.なお, 浮稲は水に対する適応性が大きく, 普通の水田では非浮稲と同じような生育をすることなどから, 東南アジア地域で古く栽培されていた短粒の稲品種は, バングラデシュの短粒の浮稲品種と同じような種類の稲だったのではないかと推論した.

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