抄録
症例は90歳の女性.右半身麻痺と失語症で当院へ救急搬入された.左中大脳動脈流域の心原性脳塞栓症と診断し,発症より1時間45分でrt-PA静注療法(40 kg,24 mg)を開始した.治療開始時のNIHSSスコアは25点で,治療後に17点まで改善したが,rt-PA投与から1時間30分後に突然の嘔吐と共に意識レベルが低下し収縮期血圧60 mmHgとショック状態になった.緊急で全身CTを施行したところ,全周性の心嚢液貯留を認め心タンポナーデによる心原性ショック状態と考えられた.患者は,rt-PA静注開始から3時間35分後に死亡された.剖検では亜急性心筋梗塞と梗塞部位に一致する心破裂の所見を認めた.心筋梗塞を合併した急性期脳梗塞患者へのrt-PA静注療法の実施に当たっては,心破裂を生じる可能性があり十分注意する必要があると考えられた.