2019 年 41 巻 5 号 p. 375-379
要旨:症例は57 歳男性.後頸部痛で発症した前交通動脈瘤破裂によるクモ膜下出血に対して,コイル塞栓術を行った.術中合併症なく終了し,術後は会話も可能で,神経所見は見られなかった.脳血管攣縮期に音や言語に対する反応が低下し,大きな声で話しかけ,耳元で手を叩くが無反応であった.モニターや点滴のアラーム音などにも反応が見られなかったが,筆談による意思疎通は可能であった.臨床症状から皮質聾と診断.MRI,聴性脳幹反応(ABR)では特記所見なく,SPECT にて両側聴覚野を含む血流低下を認めた.脳血管攣縮に対する保存的治療を行ったところ,症状は改善し,日常会話が可能となった.ABR,MRI では異常所見を認めず,SPECT にて聴覚野を含む脳血流も改善した.クモ膜下出血の脳血管攣縮期に発症し,両側側頭葉の血流改善とともに回復した聴力障害の血流変化を,SPECT により捉えることができた皮質聾の症例であった.