抄録
要旨:症例は78 歳男性で,左中心前回の皮質梗塞による右上肢の単麻痺で発症.頸部MRA で左頸部内頸動脈狭窄を指摘.狭窄部は内出血を伴う脆弱性プラークが示唆された.発症約2 カ月後に頸動脈ステント留置術を施行.バルーンによる遠位プロテクションを選択.左内頸動脈を遮断すると直後より右片麻痺,失語,意識障害が出現.鎮静下に速やかにステントを留置し,遮断時間は8分50 秒.血流再開後の撮影で末梢塞栓はみられなかったが,遮断解除後も虚血症状は改善しなかった.治療3 時間後には右片麻痺は改善したが失語が続き,完全に改善したのが治療翌々日であった.バルーン遠位プロテクションでは虚血耐性が問題となるが,血流再開後虚血症状は多くは速やかに改善するとされる.本症例は片麻痺が約3 時間,失語が30 時間程度遷延したが,新たな脳梗塞はみられず,その後完全回復し,純粋に虚血不耐性による症状が遷延したものと考えられた.