1984 年 6 巻 4 号 p. 405-410
S-adenosyl-L-methionine (SAM) の脳組織内エネルギー代謝に及ぼす効果を明らかにすることを目的に, マウスを用い脳虚血モデルについて経時的に解糖系を中心に検討を加えた.断頭後の脳内phosphocreatine, ATP, glucose, glycogenおよびlactateの変化を検討したところ, 対照群では脳組織内在性エネルギー源のすみやかな減少とlactateの増加が認められた.SAM投与群では断頭時すでに脳内glucoseの有意な増加が認められ, 断頭後, 脳組織内在性エネルギー源濃度は対照群に比して高い値を示した.断頭後のhigh energy phosphate utilizationを検討したところ, 断頭10秒後まではSAM投与群では対照群の77.1%に抑制されており, 断頭による脳組織内在性エネルギー源の枯渇までの時間がSAM投与により延長された.以上の結果からSAMがマウスの脳虚血に対して保護作用を有することが明らかとなり, 臨床的に脳血管障害時の脳虚血に対して有効である可能性が示唆された.