抄録
成人T細胞白血病 (ATL) は, ヒトT細胞白血病ウイルスI型 (HTLV-I) 感染者に発症する予後不良の悪性腫瘍である. HTLV-I感染者の末梢血リンパ球を用いた免疫解析や動物実験結果から, HTLV-I Tax特異的細胞傷害性T細胞 (CTL) が抗腫瘍機構の1つであることが示されてきた. HTLV-I感染者のうちATLを発症するものは約5%であり, 疫学的には垂直感染と高プロウイルス量 (感染細胞数) がATL発症と関連している. HTLV-I垂直感染の主経路は母乳を介した経口感染である. ラットへの実験的HTLV-I経口感染では, 宿主HTLV-I特異的T細胞応答は低いにもかかわらず持続感染プロウイルス量は高くなり, 両者は逆相関した. これは, 経口感染によるHTLV-I特異的T細胞寛容あるいは低応答が感染細胞数の増大を許すことを示しており, 疫学的ATL発症リスクとされる垂直感染と高プロウイルス量を免疫学的に関連付けるものである. さらに, 経口感染個体のHTLV-I特異的T細胞免疫の低応答性は免疫刺激により高応答性に転換した. これは免疫賦活によるATL発症リスク回避の可能性を示唆する. 興味深いことに, Tax特異的CTLの低応答性から高応答性への転換は, 同種造血幹細胞移植後に寛解を得たATL患者でも認められた. これらの観察は, Taxを標的とした免疫賦活によるATL発症予防および治療の可能性を示唆している.