ウイルス
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総説
ウイルス発癌の新しい分子機構―レトロウイルス由来構造タンパク質エンベロープを利用した細胞トランスフォーメーション
前田 直良吉開 泰信
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2007 年 57 巻 2 号 p. 159-170

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抄録

 レトロウイルスの中でも,宿主に腫瘍を引き起こすRNA腫瘍ウイルスは,1908年の最初の報告以来この100年の間に,トリ,マウス,ラット,あるいはヒトなどから分離,同定されている.その歴史上からRNA腫瘍ウイルスは,急性発癌型と慢性発癌型とに分類されてきた.急性発癌型RNA腫瘍ウイルスは,基本的に自己複製欠損性であるが,細胞染色体由来の癌遺伝子を持ち,その発現によって短期間で宿主に腫瘍を引き起こす.最初に同定された癌遺伝子は,Rous sarcoma virusより分離されたsrcと呼ばれる非受容体型チロシンキナーゼで,シグナル伝達において重要な役割を担っていることが知られている.一方,慢性発癌型RNA腫瘍ウイルスは,gag,pro,pol,env領域のみで構成され,細胞由来の癌遺伝子を持たないが,自己複製可能であることから,宿主染色体への組込み後,ウイルスlong terminal repeatによってその近傍の原癌遺伝子を活性化することにより,長期間かけて腫瘍を引き起こす,いわゆるpromoter insertionである.これまでの研究により,これらがRNA腫瘍ウイルス発癌の分子機構として考えられてきていた.しかし非常に最近になって,ウイルス由来構造タンパク質であるエンベロープが直接宿主に腫瘍を引き起こす,あるいは培養細胞をトランスフォームすることが報告されてきている.これらは,エンベロープが細胞をトランスフォームする極めて稀な例である.本稿では,RNA腫瘍ウイルスによる発癌分子機構の研究の歴史を振り返るとともに,レトロウイルスエンベロープタンパク質を介した細胞トランスフォーメーションの分子機構に関する最近の研究展開について論述する.

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© 2007 日本ウイルス学会
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