ウイルス
Online ISSN : 1884-3433
Print ISSN : 0042-6857
ISSN-L : 0042-6857
総説
肝細胞内RIG-Iにより制御されるHCV感染
齋藤 剛Michael Gale Jr.
著者情報
ジャーナル フリー

2008 年 58 巻 2 号 p. 105-116

詳細
抄録
 C型肝炎ウイルス(HCV)感染症は急性肝炎を発症した後,慢性化することにより,肝硬変,肝不全,肝細胞癌を引き起こす.HCVは慢性感染性を成立させるために,さまざまな方法で宿主の自然免疫,獲得免疫システムから逃避することが知られている.宿主ウイルス感染細胞は,病原体特有の病原体関連分子パターン(pathogen-associated microbial patterns; PAMPs)を,細胞膜上または細胞質内のパターン認識受容体(pattern recognition receptor ; PRR)を介して認識し,種々の炎症性サイトカイン,1型インターフェロン(IFN)の産生を誘導 することによりウイルス増殖の抑制,排除を行う.HCVはこの宿主の自然免疫系のシグナル伝達を阻害することや免疫細胞の機能低下を引き起こすことにより,効率的に慢性感染化する.さらに慢性C型肝炎に対する現在の標準的治療である1型IFN療法は,肝細胞膜上にある1型IFNレセプターを介して約300種類のIFN誘導遺伝子(ISG) と呼ばれる遺伝子群の発現を誘導することにより抗ウイルス効果を発揮するが,HCVは細胞内自然免疫シグナル伝達を阻害することにより,本来ならばそれによって活性化されるエフェクター経路(IFNシグナル伝達)やエフェクター分子(ISG)を不活化することでIFN療法にたいしても抵抗性を示す.このため現在の標準的IFN療法では著効例はC 型肝炎患者の約5 割にのみとどまる.本稿ではHCVに対する自然免疫シグナル伝達とウイルスのその逃避機構のメカニズムを中心に我々の結果も含めた最新の知見について解説する.
著者関連情報
© 2008 日本ウイルス学会
前の記事 次の記事
feedback
Top