沙漠研究
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原著論文
分光放射と放射温度を用いたコムギの生長モニタリング
中尾 里菜木村 玲二杉浦 李果石井 孝佳
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2024 年 34 巻 3 号 p. 93-103

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抄録

乾燥地は世界の陸地面積の41%を占め,20億人以上の人々が暮らしている.地球温暖化の進行は,乾燥地における干ばつや熱波などの異常気象の頻度を高め,コムギに代表される作物の生産性を低下させる.人口増加や気候変動に対する食料供給の安定した確保は緊急の課題であり,例えば,乾燥に強い品種を作るための育種研究が盛んに行われている.本研究では,乾燥地におけるコムギ育種の効果を継続的に評価することを目的として,分光反射と放射温度(群落面温度)の観測データを用いて,異なるコムギ品種(対照区とイネコムギ)間のフェノロジーと水分効率(moisture availability)を評価する方法を提示,検討した.正規化差植生指数は,Initial period,Crop development period,Heading period,Ripening periodで示される各生育期間を的確に再現していた.群落面温度と気温の差は,出穂日以降急激に減少することが示された.理由として,出穂による顕熱フラックスの減少と潜熱フラックスの増加が考えられる.水分効率の指標(コムギ水ストレス指標と衛星乾燥度指標)の季節変化は,正規化差植生指数の季節変化とよく一致した.しかしながら,衛星乾燥度指標は,水分効率の質的(季節)変化の傾向を追跡できるが,コムギ水ストレス指標ほど定量的なモニタリングには適さないことが分かった.各指標の結果を用い,異なるコムギ品種間のフェノタイピングを行うことを試みた.両区間で,正規化差植生指数の値やフェノロジー(各生長期間や出穂日)について,ほとんど差異は認められなかった.コムギ水ストレス指標による水分効率に関しては,Crop development periodからHeading periodにかけてイネコムギの方が低くなったが,特にRipening periodにおいてその低さが顕著であった.

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© 2024 日本沙漠学会
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