ウイルス
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平成23年杉浦賞論文
ウイルス感染による宿主自然免疫応答の解析と感染制御への応用
阿部 隆之
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2012 年 62 巻 1 号 p. 103-112

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抄録

 バキュロウイルスは,環状の二本鎖DNAを遺伝子に持っている昆虫を宿主とするウイルスであり,現在,大腸菌発現系と同様に様々な組換え蛋白質の発現系システムとして広く汎用されている.その一方で,近年,複製はしないが,広範囲な哺乳動物細胞にも感染できることが示され,新しい遺伝子導入ベクターとしての有用性が期待されている.これまでに,筆者らは,バキュロウイルスのウイルスベクターワクチンとしての評価を検討したところ,バキュロウイルス自身に哺乳動物細胞に自然免疫応答を誘発できることを見出した.近年同定された,自然免疫認識分子であるToll様受容体は,様々な病原微生物由来の構成因子を認識し,炎症性サイトカインやインターフェロンを誘発して生体防御反応に寄与することが知られている.様々なToll様受容体及びそのシグナルアダプター分子であるMyD88を欠損した免疫細胞内では,バキュロウイルス感染に伴う炎症性サイトカインの産生が著しく減少することが示されたが,インターフェロンの産生は正常であることが確認された.Toll様受容体非依存的にインターフェロンを産生する分子としてRNAヘリケースであるRIG-I及びMDA5が同定され,様々なRNA及びDNAウイルス感染に対するインターフェロンの発現制御に関与していることが報告されている.しかしながら,バキュロウイルスによるインターフェロンの産生はこれらRNAヘリケースにも非依存的であることが示され,既報のシグナル経路とは異なる機序にてインターフェロンの産生が制御されている可能性が示唆された.さらに,野生型のバキュロウイルス粒子あるいは,その精製ウイルスゲノムDNAと外来抗原のマウスへの共感作により,特異的な細胞性免疫応答の促進が付与されることも報告されている.本稿では,バキュロウイルスのアジュバント活性を伏せ持った新規ワクチンベクターとしての有用性及び,哺乳動物細胞内における自然免疫誘導シグナルの探索ツールとしての可能性について解説したい.

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© 2012 日本ウイルス学会
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