ウイルス
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62 巻, 1 号
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総説
  • 福原 崇介, 松浦 善治
    2012 年62 巻1 号 p. 1-8
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2013/05/09
    ジャーナル フリー
     C型肝炎ウイルス(HCV)は狭い宿主域と高い臓器親和性を示す.細胞への侵入やゲノム複製を模倣する実験系や,ヒト肝癌由来細胞で増殖する実験室株(HCVcc)の開発により,HCVの感染環の解明が大きく進展した.特に,4つの感染受容体候補分子を発現させたマウス細胞やマウス個体にHCVccが侵入できることから,HCVの組織特異性は受容体の発現によって規定されていると考えられてきた.しかしながら,HCV感染は肝障害のみならず,種々の肝外病変を発症することが知られており,HCVの組織指向性に関しても不明な点が多い.最近我々は,HCVゲノムの複製を亢進する肝臓特異的なmicroRNAであるmiR-122を非肝臓系細胞に発現させると,HCVゲノムは効率よく複製するものの,感染性粒子は産生されないことを明らかにした.肝臓細胞と比べて非肝臓系細胞では脂質代謝系を欠いていることから,HCVのゲノム複製にはmiR-122が,また,感染性粒子の産生には脂質代謝系が重要であり,これらの因子がHCVの組織特異性を規定している可能性が考えられる.本稿では,我々の成績を中心にして,HCV感染の組織指向性に関与する宿主因子について考察したい.
  • 山岸 誠, 渡邉 俊樹
    2012 年62 巻1 号 p. 9-18
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2013/05/09
    ジャーナル フリー
     HTLV-1はウイルス遺伝子産物によって感染T細胞を不死化,腫瘍化に導くが,成人T細胞白血病(ATL)を発症するまでの長い潜伏期間の背景にある分子機構は不明な点が多い.感染細胞及びATL細胞において様々な遺伝子発現異常が各々の特徴に寄与しているが,一方でそれらを制御する上流のイベントは不明な点が多かった.miRNAによる遺伝子発現調節という新たな概念が提唱されて以来,HTLV-1/ATLの領域においても複数の研究報告があり,分子レベルでの理解が深まったと言える.特に,ATLの多数の臨床検体を用いた網羅的解析の結果から,腫瘍細胞の特徴の1つであるNF-κBの恒常的活性化の分子メカニズムが明らかとなった.miRNAを介したエピジェネティック制御とNF-κB経路のクロストークも明らかとなり,miRNA研究から新たな分子機構も提唱された.一方でHTLV-1の生活環とmiRNAの関わりやmiRNA発現異常の原因解明など,今後の課題は多い.miRNAは多機能性であり,これらの分子基盤の創設がHTLV-1研究の今後の発展に寄与すると考えられる.
  • 志村 華子, 増田 税
    2012 年62 巻1 号 p. 19-26
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2013/05/09
    ジャーナル フリー
     RNAサイレンシングは植物のウイルス抵抗性に重要な役割を果たしている.多くの植物ウイルスはこれに対するカウンター攻撃としてRNAサイレンシングサプレッサー(RSS)を生産する.最近の研究から,RNAサイレンシングは植物の病徴発現に深く関与することが明らかになってきた.例えば,植物の組織や器官の分化にはmiRNAによる遺伝子発現制御が関わるが,この制御機構はウイルスのRSSによって乱され,ウイルス感染植物は奇形症状を現す.植物ウイルス病で典型的なモザイク症状は,RSSと宿主サイレンシングの攻防の結果として説明される.また,特殊な例として,ウイルス由来のsiRNAが偶然に宿主の特定の遺伝子にサイレンシングを誘導し,それが病徴発現につながる場合もある.植物だけでなく動物においても,宿主とウイルスの相互作用(病気の誘導)に果たすRNAサイレンシングの役割は注目されており,ウイルス防御戦略の構築へ導く重要なメカニズムとして考えられている.
  • 宮澤 正顯
    2012 年62 巻1 号 p. 27-38
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2013/05/09
    ジャーナル フリー
     APOBEC3は一本鎖DNAを標的とするシチジンデアミナーゼであり,レトロウイルス複製制限因子として機能する.現存の感染性レトロウイルスは自然宿主のAPOBEC3に対抗する機能を獲得しており,一方で宿主側も遺伝子重複によりAPOBEC3機能を進化させてきたと信じられていた.ところが最近,ヒトでもマウスでもAPOBEC3分子がタンパク質レベルで低発現となるような遺伝子多型が種の分岐後に獲得され,これが地理的に広範囲に分布している事実が明らかとなった.外来性の感染性レトロウイルスに対してAPOBEC3が示す生理的な防御効果と,感染性レトロウイルスの脅威が少ない場合に同じシチジンデアミナーゼが示す可能性のあるゲノムDNAの傷害作用との間に,微妙なバランスが存在するらしい.本稿ではAPOBEC3の生理機能と分子進化について最近の知見を解説した.
特集1:国際ウイルス会議2011/第59回日本ウイルス学会学術集会 プレナリーセッション
  • 審良 静男, 斉藤 達哉, 河合 太郎
    2012 年62 巻1 号 p. 39-46
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2013/05/09
    ジャーナル フリー
     ウイルスや細菌のもつ核酸(DNAとRNA)は自然免疫系により認識され,I型インターフェロンや炎症性サイトカインが産生され,感染病原体に対する生体防御応答が誘導される.我々は発現スクリーニングにより,二重鎖DNAに対する自然免疫応答を制御する細胞内分子としてTRIM56を同定した.TRIM56はユビキチンリガーゼとして機能し,STINGと呼ばれるアダプター分子のK63型ユビキチン化を促進した.この修飾により,TBK1キナーゼがリクルートされ最終的にI型インターフェロンが誘導された.以上のことから,DNAに対する自然免疫応答において,TRIM56によるユビキチン化を軸とした新たなシグナル伝達経路の存在が明らかとなった.一方,Toll-like receptor (TLR) 7とTLR9は,ウイルスの核酸を認識し,プラズマ細胞様樹状細胞からI型インターフェロン産生をさせる.我々は,抗ウイルス因子として報告されていたViperinが,プラズマ細胞様樹状細胞においてTLR7/9を介したI型インターフェロン産生に重要な役割を果たしていることを見出した.Viperinは,プラズマ細胞様樹状細胞においてTLR7/9の刺激より転写因子Interferon regulatory factor (IRF) 7依存的に強く誘導され,脂肪滴に局在している.Viperinは,プラズマ細胞様樹状細胞においてTLR7/9の下流で働きIRF7を活性化するシグナル伝達因子として知られているTRAF6とIRAK1に結合し,これらの因子を脂肪滴上へとリクルートする.その結果,IRAK1のK63結合型ユビキチン化が効率的に誘導され,IRAK1によるIRF7の活性化を介したI型インターフェロンの産生が促進される.Viperinが,直接的なウイルス複製阻害に加えて,TLR7/9を介したI型インターフェロン産生の促進により抗ウイルス応答に関わっていることが判明した.
  • 朝長 啓造
    2012 年62 巻1 号 p. 47-56
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2013/05/09
    ジャーナル フリー
     ハワード・テミンが提唱したDNAプロウイルス仮説に始まるゲノムウイルス学は,生物ゲノムの多様性と進化におけるレトロウイルスの役割について多くの知見を明らかにしてきた.一方,私たちはヒトをはじめとする多くの哺乳動物のゲノムに,逆転写酵素を持たないマイナス鎖RNAウイルスであるボルナウイルスの遺伝子断片が内在化していることを発見した.その後,さまざまな非レトロウイルス型ウイルスの内在化が報告され,生物のゲノムにはこれまでに考えられていた以上にウイルス由来の配列が存在することが明らかとなった.本稿は,2011 IUMS国際ウイルス会議・第59回日本ウイルス学会学術総会で講演した内容をもとに,内在性ボルナウイルス因子の発見と動物ゲノムにおける内在性ウイルス因子の存在意義について,最近の知見を交えながら考察を行うものである.
特集2:国内で話題のワクチン
  • 清水 博之
    2012 年62 巻1 号 p. 57-66
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2013/05/09
    ジャーナル フリー
     ポリオワクチン関連麻痺(VAPP)およびワクチン由来ポリオウイルス伝播によるポリオ流行のリスクを避けるため,ポリオ流行のリスクが低い多くの国々では,不活化ポリオウイルスワクチン(IPV)が定期予防接種に導入されている.我が国では,現在,単独IPVと二種類の百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオ (セービン株由来IPV; sIPV) 混合ワクチンの製造承認申請が提出されており,2012年秋の導入が予定されている.一方,VAPPリスクへの強い懸念や近い将来のIPV導入により,経口生ポリオウイルスワクチン(OPV)接種率低下が顕在化している.OPVからIPVへの移行期における,集団免疫レベルの低下について注意深く監視するとともに,ポリオ疑い例のサーベイランス強化とポリオウイルス実験室診断の徹底が求められている.sIPVの開発は,より価格の安いIPVを途上国に導入するための,もっとも現実的なオプションのひとつである.そのため,sIPV導入後は,世界で初めて認可されたsIPV製剤として,有効性,安全性,および,互換性に関する臨床研究が必要とされる.
  • 溝上 雅史, 杉山 真也
    2012 年62 巻1 号 p. 67-78
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2013/05/09
    ジャーナル フリー
     B型肝炎ウイルス(HBV)ワクチンの開発の成功により,本邦では1986年から nation-wide に母 子感染防止事業が始まり,本邦における HBV の主な感染経路であった母児感染予防対策が開始され た.その結果,本邦では25歳以下は世界で最も HBV 持続感染者(HBキャリア)が少ない国の一つ となり,HBV により引き起こされる B 型肝炎は本邦では過去の疾患になったと考えられた.しかし,一方では本邦には今まで存在しなかった新たな HBV genotype A が海外から流入し,従来 よりも感染リスクが増加している.この新たな感染は主に性行為感染症により拡大しており,現在ではこの水平感染が HBV の主な感染経路となっている.また,HBV ワクチン接種者についても,Vaccine induced eacape mutant の有無に関わらず,感染が成立したという事例も報告が続いており,HBs 抗体価をはじめとする HBV ワクチンの効果についても再度見直す必要がある.さらに, 現在頻用されている分子標的治療薬投与により,これまで治癒したと考えられていた HBs 抗原陰性 且つ HBs 抗体陽性者からの再活性化や劇症化が起こることも明らかとなってきた.
     以上の事実は,一度でも HBV に感染した場合に一生再活性化のリスクを抱える点や現行の HBV ワクチンの問題点を踏まえて,HBV 感染症と HBV ワクチンのあり方について新たな局面をむかえて いることを示している.
  • 川名 敬
    2012 年62 巻1 号 p. 79-86
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2013/05/09
    ジャーナル フリー
     ヒトパピローマウイルス(HPV)は子宮頸癌や尖圭コンジローマの原因となりうるウイルスである.この10年の間にHPV感染を予防できるHPVワクチンが開発され,大規模臨床試験によって多くのHPV関連疾患に対する予防効果が全世界的に証明された.HPV関連疾患で最も重要なものは子宮頸癌である.子宮頸癌の罹患率のピークは20年間で20才近く若年化し現在は2545才がピークである.がんを予防できるワクチンという観点から極めて重要な意義を持つ.ただし子宮頸癌予防に関してはその限界も理解しておく必要がある.一方,尖圭コンジローマの予防については,海外では既にpopulation impactが現れてきている.尖圭コンジローマが近い将来社会から撲滅されることも夢ではない.本稿ではHPVワクチンをレビューしたい.
  • 谷口 孝喜
    2012 年62 巻1 号 p. 87-96
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2013/05/09
    ジャーナル フリー
     2006年に2種のヒトロタウイルスワクチン(RotarixとRotaTeq)のすぐれた有効性と安全性を示す臨床試験成績が報告されて以来,ロタウイルスワクチンに対する関心は大いに高まった.これらのワクチンは100ヵ国以上で認可され,約30ヵ国で定期接種されている.防御能は期待以上であり,重症ロタウイルス下痢症乳児の大幅な減少につながった.わが国においても,昨年11月にRotarixの投与が開始され,RotaTeqについても間もなく開始される.これら2種のヒトロタウイルスワクチンの組成,特徴,実際の効果について記載し,腸重積,感染防御の機構,ワクチン株の排泄の意味など,問題点を含めた今後の展望についてまとめた.
トピックス
平成23年杉浦賞論文
  • 阿部 隆之
    2012 年62 巻1 号 p. 103-112
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2013/05/09
    ジャーナル フリー
     バキュロウイルスは,環状の二本鎖DNAを遺伝子に持っている昆虫を宿主とするウイルスであり,現在,大腸菌発現系と同様に様々な組換え蛋白質の発現系システムとして広く汎用されている.その一方で,近年,複製はしないが,広範囲な哺乳動物細胞にも感染できることが示され,新しい遺伝子導入ベクターとしての有用性が期待されている.これまでに,筆者らは,バキュロウイルスのウイルスベクターワクチンとしての評価を検討したところ,バキュロウイルス自身に哺乳動物細胞に自然免疫応答を誘発できることを見出した.近年同定された,自然免疫認識分子であるToll様受容体は,様々な病原微生物由来の構成因子を認識し,炎症性サイトカインやインターフェロンを誘発して生体防御反応に寄与することが知られている.様々なToll様受容体及びそのシグナルアダプター分子であるMyD88を欠損した免疫細胞内では,バキュロウイルス感染に伴う炎症性サイトカインの産生が著しく減少することが示されたが,インターフェロンの産生は正常であることが確認された.Toll様受容体非依存的にインターフェロンを産生する分子としてRNAヘリケースであるRIG-I及びMDA5が同定され,様々なRNA及びDNAウイルス感染に対するインターフェロンの発現制御に関与していることが報告されている.しかしながら,バキュロウイルスによるインターフェロンの産生はこれらRNAヘリケースにも非依存的であることが示され,既報のシグナル経路とは異なる機序にてインターフェロンの産生が制御されている可能性が示唆された.さらに,野生型のバキュロウイルス粒子あるいは,その精製ウイルスゲノムDNAと外来抗原のマウスへの共感作により,特異的な細胞性免疫応答の促進が付与されることも報告されている.本稿では,バキュロウイルスのアジュバント活性を伏せ持った新規ワクチンベクターとしての有用性及び,哺乳動物細胞内における自然免疫誘導シグナルの探索ツールとしての可能性について解説したい.
  • 佐藤 賢文
    2012 年62 巻1 号 p. 113-120
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2013/05/09
    ジャーナル フリー
     HTLV-1はATLやHAM/TSPなどの病気を引き起こすレトロウイルスである.ウイルスの発見から30年以上が経過した現在でも,その病原性発現機構について不明な点が多く残されている.今から約10年前にHTLV-1 bZIP factor (HBZ)がHTLV-1の裏側にコードされている事が明らかとなった.私たちの研究グループは,HTLV-1感染細胞が腫瘍化したATL細胞において,Taxの発現がしばしば欠失しているのに対して,HBZの発現はほとんど全てのATL細胞で維持されている事を明らかにした.さらにHBZが感染細胞の増殖に関わる事,HBZトランスジェニックマウスの解析からHBZがT細胞腫瘍化能を持つ事が示され,次第にHBZによるウイルス病原性発現メカニズムが明らかにされつつある.HBZの登場によりもたらされたHTLV-1研究のパラダイムシフトが,HTLV-1関連疾患の発症予防や新規治療法開発へとつながる事が期待される.
  • 西村 順裕
    2012 年62 巻1 号 p. 121-128
    発行日: 2012/06/25
    公開日: 2013/05/09
    ジャーナル フリー
     ウイルス感染機構の解明において,特異的ウイルス受容体の同定は重要である.私は,手足口病の主要な原因ウイルスであるエンテロウイルス71(EV71)の受容体として,P-selectin glycoprotein ligand-1(PSGL-1)を同定した.PSGL-1はシアロムチンファミリーの膜蛋白質で,主に白血球に発現する.EV71との結合には,PSGL-1のN末端領域のチロシン硫酸化が必須であった.EV71受容体の同定は,ウイルス侵入の初期過程のみならず,ウイルス感染による病原性発現機構の解明や予防治療法の開発研究に役立つものと期待される.
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