2015 年 65 巻 1 号 p. 135-144
ウイルス粒子の細胞外放出過程に関わるウイルスタンパク質の中にビロポリンと呼ばれるイオンチャネル様の多量体を形成する膜タンパク質が存在する.ビロポリンは100アミノ酸残基程度からなる小さな膜タンパク質で,多量体化して脂質二重膜に細胞内外を交通させる「孔」を作る.この「孔」がイオンや小分子の生体膜透過性を亢進させる.詳細な分子機構は未だブラックボックスであるが,膜透過性亢進の結果として宿主細胞膜の破綻を誘導し,最終的にはウイルス粒子の細胞外に放出に寄与すると考えられている.我々は,進行性多巣性白質脳症の原因ウイルスであるJCウイルスのコードするAgnoが,子孫ウイルス粒子放出を担うビロポリンであることを見出した.さらに,Agnoのビロポリン活性は,宿主因子との特異的な相互作用により制御されている事を明らかにした.このことは,ビロポリンが機能するためには生体膜に「孔」を形成するだけでなく,特定の宿主因子との相互作用が必要不可欠であることを示唆しており,ビロポリンはウイルス―宿主細胞相互作用における重要なインターフェースを形成していると考えられた.