ウイルス
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65 巻, 1 号
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総説
  • 高橋 徹
    2015 年 65 巻 1 号 p. 7-16
    発行日: 2015/06/25
    公開日: 2016/02/27
    ジャーナル フリー
     重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は,2011年に中国から報告されたフレボウイルス属のSFTSウイルス(SFTSV)による新興ウイルス感染症で,マダニ媒介性感染症と考えられている.日本国内においては2013年1月に初めての患者が確認されて以来,現在までに100名以上の患者が確認されている.SFTSVは以前から日本に存在し,かつ国内の広い範囲に分布することも分かってきているが,なぜ患者が西日本に偏在するのかは未だ不明である.SFTSの臨床像は,発熱,血小板減少,白血球減少,消化器症状のほかに,筋症状,神経症状,凝固異常など多彩であり,しばしば血球貪食症候群を合併する.病理学的にはウイルス感染細胞の増生を伴う壊死性リンパ節炎が特徴的所見である.急性期の血中ウイルス量や炎症性サイトカインの変動,感染動物モデルによる病態解析の研究も進捗しつつある.本稿では,日本におけるSFTS発見から現在までを概説し,SFTSの臨床および疫学的知見とSFTSV感染についてのウイルス学的知見について総説する.
  • 相澤 悠太, 齋藤 昭彦
    2015 年 65 巻 1 号 p. 17-26
    発行日: 2015/06/25
    公開日: 2016/02/27
    ジャーナル フリー
     ヒトパレコウイルス(Human parechoviruses: HPeVs)はピコルナウイルス科パレコウイルス属に分類され,1本のプラス鎖RNAをゲノムとして持つウイルスである.1999年にエコーウイルス22, 23がヒトパレコウイルス1型,2型(HPeV1, 2)に再分類され,HPeVsは急性胃腸炎や呼吸器感染症の原因ウイルスと考えられていたが,2004年のヒトパレコウイルス3型(HPeV3)の報告を契機にHPeVsに対する見方が大きく変わった.なぜなら,HPeV3が新生児や生後3か月以下の早期乳児に敗血症,髄膜脳炎などの重症感染症をきたし,神経学的後遺症を残したり死亡することが報告されたからである.現在,小児科領域で注目を集めている新興感染症の1つである.日本では2006年から2, 3年おきに流行を繰り返しており,2014年夏にも流行があった.典型的な臨床所見は,高熱,高度な頻脈,活気低下,食欲低下などを呈し,腹部膨満,臍突出,掌蹠の紅斑,網状チアノーゼなどを伴う.診断には,血清や髄液などの無菌的部位からの検体を用いたPCR法,咽頭,糞便などの検体を用いたウイルス培養などが用いられる.なぜ,新生児,早期乳児に重症感染症をきたすかについてのメカニズムは明確でないが,HPeV3に対する母体からの移行抗体の欠如,もしくは低値が関与していることが示唆されている.現時点では特異的治療はなく対症療法が中心である.今後もHPeV3感染症の流行は繰り返すことが予想され,病態の解明と特異的治療法,そしてその予防法など,多くの課題が残されている.
  • 土肥 可奈世, 竹内 康裕
    2015 年 65 巻 1 号 p. 27-36
    発行日: 2015/06/25
    公開日: 2016/02/27
    ジャーナル フリー
     レトロウイルスベクターは自身のゲノムを宿主ゲノムに挿入できることから,治療遺伝子を患者の体内に運ぶ有効な手段として注目されてきた.レトロウイルスベクターが標的とする遺伝子疾患は,疾患の原因である変異遺伝子の正常型を患者細胞に直接導入することで治療が行われる.従来のガンマレトロウイルスベクターは標的細胞における治療遺伝子の発現,患者の疾患症状改善という点からこれまでの臨床治験において数々の成功例を報告してきた.しかし,遺伝子治療後の副作用としてベクターを介した遺伝子挿入を由来とする白血病が発生した.このinsertional mutagenesis(IM)の報告により,ベクターコンストラクト自身の安全性が見直されただけでなく,患者細胞内のウイルスベクター挿入位置をモニタリングすることが重要であることも確認された.一方,非分裂細胞へも治療遺伝子を導入できるレンチウイルスベクターは,神経性の遺伝子疾患の治療にも利用されてきた.また,これら2種のウイルス間の宿主ゲノム内の挿入傾向も比較して調べられた結果,レンチウイルスベクターのがん原遺伝子への挿入傾向がガンマレトロウイルスベクターよりも集中していないこと,またレンチウイルウイルスベクターを用いた臨床治験ではIMによる白血病のケースがこれまで報告されていないことから,より安全なベクターとしての認識が広まった.しかし,レンチウイルスベクターが自身の挿入により宿主遺伝子のスプライシングパターンを変化させることから,IMによる副作用を発生させる可能性は残っている.最近では,レンチウイルスベクターを用いて患者体内のT細胞に癌や感染した細胞を死滅させるレセプターを発現させ,間接的に治療を行うことも始まった.これら疾患数,患者数の多い病気への応用が始まったことから,レンチウイルスベクターが今後広く臨床応用されることが期待される.
  • 木村 圭, 外丸 裕司
    2015 年 65 巻 1 号 p. 37-46
    発行日: 2015/06/25
    公開日: 2016/02/27
    ジャーナル フリー
     すべての生物の源である海,その中にはおびただしい量のウイルスが存在している.これらのウイルスは海洋の様々な生物に感染するが,その中には微細藻類に感染するものもある.1980年代に「海洋微細藻類に感染するウイルス」の存在が知られ,それ以降,これら微細藻類ウイルスの情報が蓄積されてきた.そして,これまでに40種以上の微細藻類ウイルスが発見され,それぞれが多様なウイルス群に分類されることが分かってきた.また一方で,海洋ウイルスの多くが海洋バクテリアに感染するファージであるものの,海洋微細藻類に感染するウイルスの量はそれに次ぐ量であるとも言われ,ウイルス自体のバイオマス,そして海洋微細藻類の生態や進化に対して重要な働きを持っていると考えられてきた.藻類は地球上の一次生産の半分を担うとも言われており,微細藻類に感染するウイルスが,その宿主個体群の動態に及ぼす影響は,生物生産の観点からも無視できない.そのため,生態学的な視点での微細藻類ウイルスの研究が小規模ながらも地道に行われ,徐々に環境中におけるウイルスの役割が理解されつつある.一方,微細藻類ウイルスの感染に関わる分子機構については,ほとんど理解されていないという課題もあり,両者の生態学的関係を理解する為の,分子細胞学的研究基盤の強化が強く望まれている.本総説では,これまでの海洋における微細藻類ウイルス研究についての概要を報告し,そして今,求められている課題について考えてみたい.
特集:エボラ出血熱
  • 有馬 雄三, 島田 智恵
    2015 年 65 巻 1 号 p. 47-54
    発行日: 2015/06/25
    公開日: 2016/02/27
    ジャーナル フリー
     西アフリカにおけるエボラウイルス病(Ebola Virus Disease: EVD)の流行は,2014年3月,最初にギニアから報告され,その後,国境を接するシエラレオネ,リベリアにも感染が拡大していった.これら3カ国でのEVDの流行は,流行期間,地理的広がり,死亡例を含めた症例数において過去に例をみない大規模なものとなり,最初の報告から1年を経た2015年4月現在でも流行はいまだ終息していない.また,これら3カ国以外にも,アフリカ大陸以外の国々(イギリス,スペイン,米国)を含めた6カ国でEVD症例が報告されたが,その発端となったのは,ギニア・シエラレオネ・リベリアのいずれかの国での感染例であった.病原体であるエボラウイルスについては,ヒトからヒトへの感染経路や予防法が良く理解されており,ウイルスの病原性や感染性の変化も確認されていない.しかし,今回このような大規模な流行になった要因としては,元来脆弱だった社会基盤や医療・公衆衛生の制度に加え,EVDを初めて経験する医療従事者らを含む国民や国にとって,適切な対応を迅速に行うことが容易ではなかったこと等が挙げられるだろう.
  • 下島 昌幸
    2015 年 65 巻 1 号 p. 55-60
    発行日: 2015/06/25
    公開日: 2016/02/27
    ジャーナル フリー
     エボラウイルスはヒトに致死率の高いエボラウイルス病を引き起こし,これまで散発的に数百人以下の流行を起こしていた.2013年に始まった西アフリカにおけるエボラウイルス病の流行はこれまでの規模をはるかに上回るものとなり,感染者2万以上,死亡者1万人以上で2015年5月の時点でも終息していない.国立感染症研究所ではエボラウイルス病の実験室診断法(病原体検出法と抗体検出法)を準備・改良しており,この20年で平均して年1回ほど用いられてきたが,西アフリカ3か国からの帰国者で疑い患者とされ検査が行われた件数はこの半年で7件と急増した.本稿ではエボラウイルス病を概説し,国立感染症研究所で準備されている検査法を紹介する.
  • 高田 礼人
    2015 年 65 巻 1 号 p. 61-70
    発行日: 2015/06/25
    公開日: 2016/02/27
    ジャーナル フリー
     フィロウイルス(エボラウイルスおよびマールブルグウイルス)はヒトを含む霊長類に重篤な出血熱をひきおこす病原体として知られている.ワクチンおよび抗ウイルス薬は実用化されていない.しかし,2014年に西アフリカで起きた大規模なエボラ出血熱の流行によって,予防・治療法の実用化に向けた動きは加速されるとともに,未承認ながら幾つかの治療薬が感染者に投与された.本稿では,エボラウイルスに対するワクチンおよび治療法開発のための研究と現状を紹介する.
  • 櫻井 康晃
    2015 年 65 巻 1 号 p. 71-82
    発行日: 2015/06/25
    公開日: 2016/02/27
    ジャーナル フリー
     エボラウイルスは紐状の粒子構造を持つエンベロープウイルスであり,ヒトやその他の霊長類に感染することで重篤な出血熱を引き起こす.宿主細胞への侵入は,増殖サイクルの中で最初の必須過程であり,治療標的の一つとして盛んに研究されてきた.細胞侵入に不可欠なウイルスタンパク質である表面糖タンパク質GPに加えて,特徴的な粒子構造がウイルス因子となり,様々な宿主因子がウイルスと相互作用することで宿主細胞への侵入が成立する.エボラウイルスは,まずGPを介して細胞表面タンパク質と結合し,細胞内へと移行後,エンドソーム小胞に包まれながら酸性pHを伴う細胞内分画へと移動していく.その後,宿主プロテアーゼによりGPのプロセッシングが起こり,細胞内受容体との相互作用が可能となる.そして,適当な条件が揃った環境下で,GPの大規模な構造変換を介してウイルス膜とエンドソーム膜の融合が起こり,細胞侵入が完了する.それら感染ステップに関わる宿主因子の同定,及びGPの構造解析を中心として,エボラウイルスの基礎研究は近年目覚ましい進展を見せている.本稿では,エボラウイルスの細胞侵入機構を最新の知見も踏まえて紹介していく.
  • 足立 拓也
    2015 年 65 巻 1 号 p. 83-88
    発行日: 2015/06/25
    公開日: 2016/02/27
    ジャーナル フリー
     2014年に西アフリカで報告されたエボラウイルス病は,過去最大の流行となった.医療従事者を含む多数の感染者と死者を出しながらも,関係者による多大な努力の結果,ようやく流行は終息に近づきつつある.
     本稿では5つの疑問を取り上げて,今回の流行の本質について考察する.
    1.なぜエボラウイルス病が西アフリカに出現したのか?
    2.なぜ流行がこれほどまでに拡大したのか?
    3.なぜ医療従事者の感染が相次いだのか?
    4.なぜ大規模な流行が鎮静化しつつあるのか?
    5.日本でも同様の流行は起こり得るのか?
     エボラウイルス病は,病人の世話や葬儀といった人間的行為を介して伝播することから,その流行は自然に鎮静化するものではなく,人為的な努力によってはじめて終息に持ち込むことができる.患者,一般市民,国際社会といった関係者の誰の利益を尊重するかによっても,疾患対策の成否は大きく影響される.
  • 西條 政幸, 森田 公一
    2015 年 65 巻 1 号 p. 89-94
    発行日: 2015/06/25
    公開日: 2016/02/27
    ジャーナル フリー
     日本ではエボラウイルス等バイオセーフティレベル4(BSL-4)に分類される病原体を取り扱うことはできない.1981年に国立感染症研究所は世界に先駆けてグローブボックス型のBSL-4施設を建設したが,30年以上が経過している現時点においてBSL-4施設として稼働されていない.2014-15年にかけて西アフリカにおいて過去にない大きな規模のエボラウイルス病(EVD)が流行している.また,致死率の極めて高い新興ウイルス感染症が世界各地で発生している.このような致死率の高い感染症対策に貢献するための研究がなされている中で,日本においては稼働しているBSL-4施設がないことから,感染性のあるBSL-4病原体を取り扱うことができず,公衆衛生対応や研究領域において十分な力を発揮できていない.多くの高病原性ウイルス感染症の病原体は動物由来ウイルスであり,地球上から根絶させることはできず,これからも流行が続くことが予想される.日本においてもBSL-4施設を用いて,BSL-4病原体による感染症対策のための研究や検査が実施できる体制を整備する必要がある.
  • 加藤 康幸
    2015 年 65 巻 1 号 p. 95-104
    発行日: 2015/06/25
    公開日: 2016/02/27
    ジャーナル フリー
     エボラ出血熱(EVD)対策において,医療機関は患者を速やかに診断し,治療することで市中における感染伝播を抑制する役割を担っている.今回の西アフリカにおける流行に関連して,日本国内でも疑似症患者が報告されたが,いずれも実験室診断でEVDは否定された.患者との接触歴を認めない場合は,EVDの蓋然性は一般に低い.発症してから消化器症状を呈する時期になると感染性が高くなり,極期は第7-10病日である.欧米では25名を超えるEVDの患者に治療が行われた.西アフリカより致死率は低いことから,輸液,人工呼吸,血液浄化療法などの支持療法の重要性が明らかとなってきた.実験的治療薬の有効性は現時点ではっきりしない.医療従事者の感染防止は重要であり,個人防護具や曝露後処置などにおいて,指針が整備されつつある.日本国内において,感染症指定医療機関の数は増加しているが,各機関の役割や患者移送について今後再検討が必要と考える.
  • 齋藤 智也, 福島 和子, 阿部 圭史, 氏家 無限, 梅木 和宣, 大塚 憲孝, 松本 泰治, 難波江 功二, 中谷 祐貴子, 中嶋 建介
    2015 年 65 巻 1 号 p. 105-114
    発行日: 2015/06/25
    公開日: 2016/02/27
    ジャーナル フリー
     わが国では,エボラ出血熱は,感染症法の一類感染症に位置づけられている.しかしながら,平成11年の感染症法の施行以降,これまで一類感染症であるウイルス性出血熱の感染が疑われる患者検体の検査を国立感染症研究所で実施することはあったものの,国内で感染が確認された患者はいない.
     平成26年の西アフリカでのエボラ出血熱流行に対しては,厚生労働省でも3月のギニアからの第一報から情報収集を継続して状況を注視し,対応を行っていたが,8月より検疫対応及び国内対応の強化を開始した.10月末にはエボラ出血熱等対策関係閣僚会議が設置され,政府一丸となった対応を開始するに至った.一連の対応は,国内発生が非常に稀なウイルス性出血熱のような輸入感染症に対する対応体制を大きく底上げした一方で,様々な教訓を残した.今回の流行が終息したとしても,国際的なウイルス性出血熱のアウトブレイク発生リスクは今後も変わらない.今回の知見と経験を踏まえ,国内対応の観点からは,マニュアル等の改善,継続的な訓練の実施による一類感染症等に対する感染症危機管理体制の維持・向上のほか,国際的な対応への貢献という観点からも,人材育成等を推進していくことが重要である.
トピックス
平成26年杉浦賞論文
  • 一戸 猛志
    2015 年 65 巻 1 号 p. 127-134
    発行日: 2015/06/25
    公開日: 2016/02/27
    ジャーナル フリー
     細胞がウイルスの侵入をどう感知して,それがウイルス特異的な免疫応答の誘導にどう役立っているのか?を理解することは,効果的なワクチン開発に不可欠である.私たちはこれまでに,合成二本鎖RNAのpoly(I:C)が経鼻インフルエンザワクチンの効果的なアジュバントになることを明らかにしてきた.またインフルエンザウイルスのM2タンパク質が,NLRP3 inflammasomeを活性化させること,肺でのinflammasomesの活性化や腸内細菌叢がインフルエンザウイルス特異的な免疫応答の誘導に必要であることを明らかにしてきた.これらは新しいインフルエンザワクチンの開発に役立つと期待される.
  • 鈴木 忠樹
    2015 年 65 巻 1 号 p. 135-144
    発行日: 2015/06/25
    公開日: 2016/02/27
    ジャーナル フリー
     ウイルス粒子の細胞外放出過程に関わるウイルスタンパク質の中にビロポリンと呼ばれるイオンチャネル様の多量体を形成する膜タンパク質が存在する.ビロポリンは100アミノ酸残基程度からなる小さな膜タンパク質で,多量体化して脂質二重膜に細胞内外を交通させる「孔」を作る.この「孔」がイオンや小分子の生体膜透過性を亢進させる.詳細な分子機構は未だブラックボックスであるが,膜透過性亢進の結果として宿主細胞膜の破綻を誘導し,最終的にはウイルス粒子の細胞外に放出に寄与すると考えられている.我々は,進行性多巣性白質脳症の原因ウイルスであるJCウイルスのコードするAgnoが,子孫ウイルス粒子放出を担うビロポリンであることを見出した.さらに,Agnoのビロポリン活性は,宿主因子との特異的な相互作用により制御されている事を明らかにした.このことは,ビロポリンが機能するためには生体膜に「孔」を形成するだけでなく,特定の宿主因子との相互作用が必要不可欠であることを示唆しており,ビロポリンはウイルス―宿主細胞相互作用における重要なインターフェースを形成していると考えられた.
  • 本田 知之
    2015 年 65 巻 1 号 p. 145-154
    発行日: 2015/06/25
    公開日: 2016/02/27
    ジャーナル フリー
     ボルナ病ウイルス(Borna disease virus: BDV)は,強い神経指向性を持ち,中枢神経系へ持続感染するマイナス鎖RNAウイルスである.自然感染した動物では,致死性脳炎から軽微な神経症状まで,様々な神経症状を呈する.BDV感染による病原性発現の分子メカニズムについては,未だ不明な点が多い.細胞非傷害性であるBDVの病原性は,必ずしもウイルス量に相関せず,感染細胞の質的変化・機能異常によるものと考えられる.これは多くの細胞傷害性ウイルスの病原性がウイルス量と相関するのと大きく異なる.本稿では,BDV感染による病原性発現機構について,私たちが見出した2つの現象を紹介する.グリア細胞は,BDV Pタンパク質発現により,周辺のIGFシグナルの異常を引き起こし,BDV感染病態を誘導する.一部の感染細胞では,BDV mRNAの逆転写と宿主ゲノムへのインテグレーションが起こる.この挿入配列は,BDVタンパク質のバランス変化,BDVを認識するpiRNA産生,周辺遺伝子の発現変化などを引き起こしうる.BDV感染動物では,これらが複雑に絡み合い,様々な症状を呈しているものと考えられる.
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