抄録
2019年,北海道でマダニ刺咬後に発熱を呈した患者より新規ウイルスが発見された.エゾウイルスと命名されたこのウイルスの感染者は,後方視的調査の結果を含めると,2014年から2020年までの間に7名発生していた.遺伝子系統解析の結果,エゾウイルスはナイロウイルス科オルソナイロウイルス属に分類され,ルーマニアでマダニから発見されたSulinaウイルスと同じ遺伝子群に属することが分かった.また,エゾウイルスは,近年中国で熱性疾患の原因ウイルスとして報告されているTamdy遺伝子群のウイルスに比較的近縁である一方で,クリミア・コンゴ出血熱ウイルスなどの既知の病原オルソナイロウイルスとは遺伝的に離れていた.エゾウイルス感染症を含む新興オルソナイロウイルス感染症の情報は極めて少なく,今後の発生動向に注視が必要である.