抄録
ペトリ皿の内部で水溶液に培養した, タバコモザイクウイルスに感染したタバコ葉組織の不溶性蛋白, 可溶性蛋白, 非蛋白各窒素化合物の変化を, 接種後2, 4, 6日目に測定し, かつこれらの窒素成分が, チオウラシル・マイトマイシンC・ナラマイシン (アクチザオン類似物質) などの抗ウイルス剤でウイルス増殖が部分的に阻害されたはあい, どのように変動するかを調べた. 抗ウイルス剤を作用させないときには, 可溶性蛋白窒素は感染・非感染ともに接種後2日目に減少し, 非感染葉ではその後も次第に減少するが, 感染葉ではやゝ増加する. この増加は非蛋白窒素の減少に符号し, ウイルス感染力の増加の時期とも一致する. すなわち非蛋白窒素が素材となつてそれが可溶性窒素成分に組み入れられ, かくてウイルス感染力の増加となる.
チオウラシル (濃度25ppm, ウイルス感染力を約90%阻害) およびマイトマイシンC (濃度25ppm, 感染後期に約30%阻害) による処理は, いずれも以上の感染による窒素成分の変化を非感染葉のそれに近づけた. すなわち感染末期に非蛋白窒素の減少が認められず, したがつて可溶蛋白の増加がない. とくに処理による不溶蛋白の増加が注意されたが, これがウイルス前駆体の蓄積を意味するかどうかは決定されなかつた. ナラマイシン (濃度1ppm, 主として感染初期に阻害が起こる) の作用性は前2者と異る. すなわち処理によつて非蛋白窒素が全感染期間を通じて増加し, また不溶蛋白が減少する. この物質は植物に対する薬害が強く, 恐らく葉緑 (不溶) 蛋白を分解し, 一方ウイルス増殖の阻害によつて非蛋白窒素から可溶蛋白への経路が阻止されて, かくて前者の蓄積が起こるものと想像された.