抄録
症例はヒマラヤン,9歳,体重3.2 kgの避妊雌。近医にて心内膜の高エコー所見と胸水貯留などから拘束型心筋症(RCM)と診断され治療を受けていたが,臨床症状の改善がみられないため日本獣医生命科学大学付属動物医療センターに来院した。稟告では活力減退,食欲不振,多飲多尿,呼吸速拍および眼の変色が主訴であった。非観血的血圧測定では収縮期血圧,平均血圧および拡張期血圧はそれぞれ223 mmHg, 189 mmHgおよび158 mmHgであった。著者らは,超音波診断,血中ホルモン濃度測定および血液生化学検査などから,本症例を本態性高血圧症と仮診断した。しかし,この時点では,軽度の心室内膜の高エコー化と不整が認められるためRCMを完全に除外診断することはできなかった。塩酸ジルチアゼム,ACEI,ジピリダモールにより治療を開始した。収縮期血圧は治療前の210~230 mmHgから180~190 mmHgへと低下し,一般状態の改善が認められたため同様の治療を継続した。初診時に認められた心内膜の高エコー化所見は,その後の心エコー検査において認められなくなった。よって,RCMを除外することで本態性高血圧症の診断を下した。その後,一般状態は安定していたが,しばらくして再度,収縮期血圧 200 mmHg以上となり,活力低下と食欲不振などの臨床症状を呈した。そこで,塩酸ジルチアゼムからベシル酸アムロジピンに変更したところ,速やかな血圧下降と臨床症状の改善が認められた。そしてベシル酸アムロジピンの投与開始から5年以上が経過した現在も,収縮期血圧130~160 mmHgと良好な血圧コントロールと臨床状態を維持している。