2020 年 53 巻 2 号 p. 65-71
症例は避妊雌,体重3.2 kg, 5歳2カ月齢の雑種猫である。動脈管開存症と診断され,コイル塞栓術を目的に来院した。心臓超音波検査では左心系の拡大が認められ,肺動脈内に動脈管から連続した乱流が認められた。肺高血圧症を示唆する明らかな所見は認められなかったため,左-右短絡の動脈管開存症と診断し,コイル塞栓術を実施した。選択的血管造影検査で動脈管の形態を確認後,コイル塞栓術の適応と判断し手術を実施した。計3個のコイルを動脈管内に留置することで,顕著な短絡量の減少が認められたため手術を終了とした。手術翌日の心臓超音波検査では動脈管における遺残短絡は認められず,左心系の縮小が認められた。第188病日も一般状態は落ち着いており,術直後と比較してさらなる左心系の負荷所見の改善が認められた。第291病日に飼い主への聞き取り調査でも,明らかな臨床徴候は認められず,一般状態は良好であるとのことだった。動脈管開存症の猫に対するコイル塞栓術の報告は非常に限定的である。本症例は過去の報告よりも低体重であったが,動脈管が大きかったため,コイルを複数個使用することで動脈管の完全閉鎖を得ることができた。術後も明らかな合併症を伴うことなく,reverse remodelingが生じていることから,猫においてもコイル塞栓術が動脈管開存症の治療の選択肢の一つとなりうると考えられた。