猫において肥大型心筋症に形態的特徴が類似するものの,左室壁の肥厚は可逆性であり,適切な治療によりうっ血性心不全から脱却可能な一過性心筋肥大(TMT)をきたす病態が報告されている。症例は9カ月齢の雑種猫であり,意識障害ならびに虚脱状態で緊急来院した(第1病日)。本例は前日に去勢手術を受けていたとのことであった。心エコー検査では,弁肥厚を伴わない僧帽弁逆流が軽度に認められた以外には,明らかな心臓の形態的異常は確認されなかった。第2病日の心エコー検査では,左房拡大,左室自由壁の肥厚を認めた。また,胸部X線検査では肺水腫が認められた。高感度心筋トロポニンI(cTnI)は0.456 ng/mLと高値であった。そのため,ピモベンダンならびにクロピドグレルによる治療を開始した。また,第14病日では洞頻脈を認めたことから,カルベジロールを追加した。第37病日の心エコー検査では,軽度の僧帽弁逆流と心室期外収縮が認められるものの,心臓形態はほぼ正常にまでに回復しており,cTnI値も正常範囲内に戻っていた。TMTは,若齢での発生,先行事象として外科・麻酔処置や感染症などを有する,収縮期血圧の低下,うっ血性心不全や肺水腫の発生,cTnI値の上昇などを特徴としており,治療後に左房拡大や心室壁の肥厚は改善され,cTnI値も正常化するとされる。これらの特徴は,本症例の検査結果や治療反応に概ね一致していた。