抄録
僧帽弁閉鎖不全を主因とするIII度或いはIV度の心不全を有する家庭飼育犬を用いてエナラプリルの有効性および安全性を評価する試験を国内20ヶ所の動物病院の協力を得て行った。年齢5~18歳,体重1.4~19.7kgの様々な品種および性別の犬136頭を供試し,無作為にエナラプリル投薬群とプラセボ対照群に振り分けた。エナラプリル群の供試犬にはエナラプリル0.25mg/kg1日1回の初期用量で7日間投薬した後,投薬後14日目まで0.5mg/kg1日1回に投与量を増量した。投薬回数の1日1回から1日2回への変更は投薬14日目の検査結果を基に獣医師の判断で行った。対照群の犬にはプラセボ錠を投与し,エナラプリル錠およびプラセボ錠の投薬は28日間行った。1頭を除き総ての供試犬に心不全の標準療法を獣医師の判断で行った。すなわち125頭(92%)の犬にフロセミドを最犬4mg/kg/日,125頭(92%)の犬にジゴキシンを最大10μg/kg/日の用量でそれぞれ投与した。対照群およびエナラプリル群の供試犬頭数はそれぞれ67頭および69頭で,その内対照群の46頭そしてエナラプリル群の57頭が試験を終了した。
投薬28日後に行った検査結果では,総てのスコア化された検査項目(活動性,運動能力,食欲,咳の頻度,呼吸状態,肺水腫の程度,および心不全分類)の投薬開始前と比較した改善度がエナラプリル群の方が対照群に比べて統計学的に有意に優れていた。獣医師の判断による総合評価は投薬7,14および28日目総ての時点でエナラプリル群の方が対照群に比べて統計学的に有意に優れていた。血清生化学,電解質等の検査結果に関する両群間の有意差は認められなかった。エナラプリル投薬に起因する副作用は全く認められなかった。本試験結果から,エナラプリル0.25~0.5mg/kgを1日1回又は2回心不全の標準療法と併用する事によって心不全の臨床症状を安全に改善することが判明した。