抄録
【はじめに】学会は会員にさまざまなメッセージを発信する.だが重要なのは,会員が何を受け取りどのように了解したのかである.会員が了解したメッセージは,総会活動の中に痕跡として残されている.このメッセージをどのようにとらえて利用できるのかを検討した.【方法】1999年から2006年まで心臓血管外科専門医制度を構成する 3 学会を対象に,静脈血栓塞栓症に関わる主要セッションのテーマ(セッション・テーマ)解析を行った.さらに,この結果を公的鑑定に使用可能かどうかを検討した.事件は1999年当時の肺塞栓症の予防として深部静脈血栓症の予防を行う注意義務があったかどうかが問われた控訴審であった.【結果】日本胸部外科学会では関連テーマがなく,日本心臓血管外科学会では2005年に治療が一度取り上げられていた.一方,日本血管外科学会では診断と治療が2001年以降 5 セッションで取り上げられ,深部静脈血栓症予防による肺塞栓症の予防は2006年に初めて取り上げられた.最高度の医療水準を示す学会セッションでも,深部静脈血栓症の予防による肺塞栓症の予防が取り上げられたのは2006年が初めてであったことから,それ以前の肺塞栓症の予防とは深部静脈血栓症の早期診断と早期治療であったことを明らかにできた.鑑定において1999年当時の医療水準をこのような方法で示すことができ控訴棄却となった.【結論】セッション・テーマの解析により,学会の専門性と「当時の医療水準」の「上限」を示すことができた.