遺残坐骨動脈は胎生5週の胎児期に下肢を栄養していた坐骨動脈がそのまま遺残したものである.発生頻度は0.01–0.06%と言われており,多くは無症状で経過する.発見時は約70–80%の症例が有症状であり,血栓・塞栓による下肢虚血症状,瘤形成(約50%)による臀部痛,坐骨神経痛や瘤破裂などの症状を呈する.遺残坐骨動脈は膝窩動脈に連続している「完全型」と膝窩動脈に連続していない「不完全型」に分類され,さらに浅大腿動脈の発達程度(正常発達,低形成・欠損)によって細分類化される.症状や分類,瘤形成の有無などにより,治療適応や血行再建のアプローチを検討する必要がある.浅大腿動脈が低形成・欠損している型では,瘤に対する治療とともに,下肢動脈の血行再建が必要である.一方で浅大腿動脈が正常の型では下肢動脈の血行再建は不要で,瘤に対する治療で対応可能である.
【目的】孤立性上腸間膜動脈解離(ISMAD)は比較的稀で治療法は確立されていない.当科で経験したISMADを検討した.【方法】2011年1月から2023年10月にcomputed tomography angiography(CTA)でISMADと診断した39例の形態,治療法と成績を検討した.【結果】平均年齢57.6歳(19–81),男女比33 : 6, 平均観察期間39.1カ月(0–178)であった.Sakamoto分類はtype I 13例,type II 3例,type IV 23例であった.侵襲的治療は腸管虚血を呈したtype IIの1例に血管内ステント留置ならびに緊急開腹下腸切除術を,瘤径拡大を認めたtype Iの1例に動脈瘤切除およびバイパス術を施行し,37例には保存的療法を行った.全例生存し再発や合併症は認めていないtype I 1例,type II 1例,type IV 13例で解離腔が自然消失した.【結論】ISMADの多くは保存的治療可能である.腸管虚血や瘤径拡大を認めた場合は侵襲的治療を選択すべきである.
症例は74歳男性.左上肢麻痺を主訴に当院を受診し,MRIで右半球に散在する脳梗塞を認めた.入院加療を勧めたが麻痺症状が速やかに改善したため,本人の強い希望により帰宅した.しかしその15日後に再度左上肢麻痺を発症し当院を受診,入院となった.MRIで右半球に新たな脳梗塞を認め,造影CTでは腕頭動脈瘤および右鎖骨下動脈閉塞を認めた.腕頭動脈瘤内には粥腫が豊富に存在し,これが一連の脳梗塞の原因と考えられ,脳梗塞の再発予防のため外科的介入が必要と判断した.血管内治療は塞栓症のリスクが高く不適と判断し,左右腋窩動脈間のバイパスを作成したうえで右総頸動脈を結紮・離断し,右総頸動脈にも非解剖学的バイパスを行った.術後経過は良好で術後7日目に自宅退院した.以降,6カ月経過し,脳梗塞の再発は認めていない.
腹部アンギーナは,慢性的な腸管虚血症状を呈する疾患であり,その原因となる症候性の慢性腸間膜動脈閉塞(CMI)に対して血行再建術が考慮されるが,標準的な治療方針は確立されていない.70歳男性,食道癌に対する術前化学療法中に右下腹部腹痛を認め,結腸壊死の診断で結腸右半切除術を施行した.2カ月後に再び腹痛が出現し,CT検査で腹腔動脈(CA)の狭窄と上腸間膜動脈(SMA)閉塞を認め,CMIに伴う腹部アンギーナと診断し,CAの狭窄に対してステントを用いた経皮的血管拡張術(EVT)を施行した.EVT後,腹部症状は消失し再発することなく良好な経過を得た.
遺残坐骨動脈は稀な先天異常(0.03–0.06%)であり下肢動脈虚血の原因となることがある.症例は76歳女性.2年前に左遺残坐骨動脈に起因する急性左下肢動脈血栓塞栓症に対する外科的治療の既往がある.今回は右下肢冷感を自覚し当院を受診した.造影CTで右膝窩動脈以遠の急性動脈閉塞と壁在血栓を伴う右完全型遺残坐骨動脈を認めた.初回は外科的血栓除去術を施行したが,予定手術待機中の術後50日目に再発を認めた.手術は外科的血栓除去術に加えて,再発予防目的に総大腿–膝窩動脈バイパス術と臀部アプローチによる遺残坐骨動脈結紮を施行した.術後下肢血流は改善し,経過良好で術後8日目に独歩退院となった.今回,完全型遺残坐骨動脈に起因する急性下肢動脈血栓塞栓症に対して,外科的血栓除去術および総大腿–膝窩動脈バイパス,臀部アプローチによる遺残坐骨動脈結紮を施行し,良好な結果を得たため報告する.