日本血管外科学会雑誌
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総説
  • 金子 健二郎, 伊藤 栄作, 大木 隆生
    2026 年35 巻4 号 p. 153-161
    発行日: 2026/08/08
    公開日: 2026/08/08
    ジャーナル オープンアクセス

    大動脈腸骨動脈閉塞性疾患(AIOD)は,全身性動脈硬化症の臨床的に重要な病態であり,患者の生活の質や長期予後に深刻な影響を及ぼす.かつては外科的血行再建術が主体であったが,その治療は技術の進歩によりカバードステントを含む血管内治療(EVT)が多くの病変で第一選択として確立されてきた.本稿ではTASC II, AHA/ACC, ESC, ESVS, JCS/JSVSを含む国内外の主要ガイドラインの変遷を概説し,包括的病態評価(WIfI/GLASS分類)や個別化医療への移行を詳述する.今後の展望として,最適なデバイス選択,ハイブリッド治療,経橈骨動脈アプローチ(Trans-Radial Approach; TRA),内服薬の最適化(抗血小板薬,抗凝固薬,リバーロキサバン併用療法を含む),共同意思決定(Shared Decision-Making; SDM)の重要性につき述べる.

原著
  • 小坂 淳生, 赤松 大二朗, 梅津 道久, 鈴木 峻也, 小笠原 紀信, 亀井 尚
    2026 年35 巻4 号 p. 145-151
    発行日: 2026/08/08
    公開日: 2026/08/08
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】Superior mesenteric artery(SMA)バイパス術では,グラフト経路や素材による開存率の明確な優劣は示されておらず,術式選択は施設ごとに異なる.従来主流であったLoop-C型逆行性バイパスではグラフトの屈曲や走行距離の延長が課題である.本研究では,人工血管を用いた後腹膜下直線的逆行性バイパス術の治療成績を検討した.【方法】2013–2025年に当施設で本術式を施行した16例を後方視的に解析し,患者背景,周術期成績および一次開存率を評価した.【結果】年齢中央値は69歳,男性は12例であった.原疾患は腸間膜虚血9例,大動脈瘤7例であり,観察期間の中央値は528日であった.1年および3年の一次開存率は93.8%,78.1%であった.【結論】本術式はグラフト走行を単純化し,屈曲を回避でき,良好な開存成績を示した.したがって,SMA再建における有用な選択肢となりうる.

  • 中根 武一郎, 江﨑 二郎, 石上 雅之助, 川﨑 有亮, 吉田 壮志, 鎌田 賢昇, 井上 瑛介
    2026 年35 巻4 号 p. 205-211
    発行日: 2026/08/11
    公開日: 2026/08/11
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】開腹腹部大動脈瘤(AAA)手術後の腹壁瘢痕ヘルニアに対する腹壁閉鎖法の影響を検討した.【方法】2021年4月から2024年8月に開腹AAA手術を施行した117例を後ろ向きに解析した.腹壁閉鎖法によりバーブ付き縫合糸を用いた連続縫合群(60例)と結節縫合群(57例)に分け腹壁瘢痕ヘルニア発生率を比較した.【結果】平均追跡期間は連続縫合群31カ月,結節縫合群15カ月.腹壁瘢痕ヘルニアは連続縫合群7例(11.7%),結節縫合群17例(29.8%)に認め,Kaplan–Meier解析で連続縫合群の累積発生率が有意に低かった(log-rank p=0.0069).多変量Cox回帰解析で腹壁閉鎖法がヘルニア発生と関連していた(HR 0.37, p=0.018).【結論】バーブ付き縫合糸を用いた連続縫合は腹壁瘢痕ヘルニアの合併が少ない傾向で,腹壁閉鎖法がヘルニア発生と関連する可能性が示唆された.

症例
  • 氏平 功祐, 剱持 礼子, 徳永 宜之
    2026 年35 巻4 号 p. 133-137
    発行日: 2026/08/08
    公開日: 2026/08/08
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は76歳,他院で大動脈瘤に対し弓部大動脈人工血管置換術およびfrozen elephant trunk(FET)法を施行後,FETの非ステント部を中枢側ランディングとしてthoracic endovascular aortic repair(TEVAR)を追加していた.初回治療から10年間瘤径は縮小していたが,11年目にFETの人工血管が損傷しType IIIエンドリークが発生,瘤径の急速拡大を認めた.発症機序として,血管とステントグラフト先端部との長期にわたる機械的ストレスが一因と考えられた.これに対し追加TEVARを施行し良好な治療結果を得た.TEVAR後は本症例のような遅発性合併症も念頭に置く必要があり,初期成績が良好であっても長期的かつ慎重な画像フォローアップの重要性が示唆された.

  • 髙﨑 直, 上平 聡, 金築 一摩, 花田 智樹, 山内 正信
    2026 年35 巻4 号 p. 139-144
    発行日: 2026/08/08
    公開日: 2026/08/08
    ジャーナル オープンアクセス

    腹部大動脈瘤が完全血栓閉塞し両下肢急性虚血を呈した急性大動脈解離Stanford B型に対して段階的治療を行い,良好な成績を得たため報告する.77歳男性,胸背部痛と両下肢痛を主訴に来院された.造影CTで左鎖骨下動脈分岐部以下の偽腔開存型急性大動脈解離と,最大短径68 mmの腹部大動脈瘤を認めた.腹部大動脈瘤は完全血栓閉塞し下肢虚血を発症していた.下肢虚血解除を最優先とし,緊急で右鎖骨下動脈–両総大腿動脈バイパス術を施行した.術後に筋腎代謝症候群に陥ったが,回復後の術後45日目に腹部大動脈瘤に対し人工血管置換術を施行した.経過中に腹部大動脈で真腔の狭小化を認めたため,術後88日目にTEVARでエントリー閉鎖を行った.術後CTで偽腔は血栓化し退縮を認めた.腹部大動脈瘤に急性大動脈解離Stanford B型を発症した症例では,合併症のリスクを考慮しつつ段階的に治療介入することが重要である.

  • 佐藤 大樹, 大越 雄貴, 村岡 拓磨, 榎本 貴士, 佐藤 裕喜, 青木 賢治
    2026 年35 巻4 号 p. 163-168
    発行日: 2026/08/08
    公開日: 2026/08/08
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は62歳,男性.嚥下時のつかえ感があり,CTで右側大動脈弓と左鎖骨下動脈起始異常を伴うKommerell憩室(KD)と診断された.有症状にて手術適応とし,Frozen Elephant Trunk(FET)併用全弓部大動脈置換術の方針とした.そのさい,左右総頸動脈,左右鎖骨下動脈はいずれも細く,かつそれぞれ独立して大動脈から分岐していることから,これらの分枝再建に対応すべく,あらかじめ小口径側枝を追加して5分枝化したThoraflex Hybrid(TH)を使用した.また弓部大動脈が細く,非常に急峻であったことから,FET吻合部の屈曲・狭窄を回避するためにTHのカラーを外反し,断端に被せて固定した(Outer Collar Technique).術後CTでFET吻合部狭窄はなく,KDは完全血栓化していた.術後1年以上が経過しているが,つかえ感は消失し,KDは血栓化を維持している.

  • 須野 賢一郎, 伊藤 大貴, 上久保 康弘
    2026 年35 巻4 号 p. 169-173
    発行日: 2026/08/08
    公開日: 2026/08/08
    ジャーナル オープンアクセス

    腹部ステントグラフト内挿術(EVAR)後の瘤拡大はendoleakが主因であるが,明らかなendoleakを認めない症例も存在する.症例は75歳男性.腹部大動脈瘤に対してEndurantIIを用いたEVAR施行後,経時的に進行性の瘤拡大を認めた.造影CTでは早期相および遅延相ともに明らかなendoleakを認めなかったため,原因診断および確実な治療を目的として開腹人工血管置換を施行した.瘤切開時,血液成分を伴わない白色調で粘稠な漿液性内容物が瘤内を充満しており,perigraft seromaと診断した.EVAR後であっても,perigraft seromaが瘤拡大の原因となりうることが示唆され,明らかなendoleakを認めないEVAR後瘤拡大の鑑別として本病態を念頭に置く必要がある.

  • 野 宏成, 加藤 寛城, 北澤 直樹
    2026 年35 巻4 号 p. 175-180
    発行日: 2026/08/08
    公開日: 2026/08/08
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は79歳,男性.他院にて5年前に腹部大動脈瘤に対してAFX/AFX2ステントグラフトによるEVAR, 2年前に弓部囊状大動脈瘤に対してTEVARが施行された.左大腿部の腫脹と体動困難を主訴に紹介医を受診し,造影CTにて左大腿血腫および腹部大動脈瘤内への造影効果を伴うType IIIa endoleakを認めた.このType IIIa endoleakによるDICから出血傾向となり,大腿血腫を形成したと考えられ,ナファモスタットによるDICのコントロール後にGORE Excluderによる追加reliningを施行した.術後,endoleakは消失し,DICも改善した.

  • 角谷 明洋, 尾藤 康行, 岸本 憲明, 三浦 拓也, 柳原 貫太郎, 青山 孝信
    2026 年35 巻4 号 p. 181-185
    発行日: 2026/08/11
    公開日: 2026/08/11
    ジャーナル オープンアクセス

    外腸骨静脈の静脈性血管瘤は稀な疾患であり,明確な治療方針は確立されていない.今回われわれは左外腸骨静脈のprimary venous aneurysmに対して大伏在静脈による再建術を施行した症例を経験した.症例は76歳男性.膀胱腫瘍にて当院泌尿器科を受診し,CTにて左外腸骨静脈に4 cm大の囊状瘤を認め,当科紹介となった.造影CTにて異常な動静脈交通は認めず,外傷歴や開腹歴がないためprimary venous aneurysmと診断し手術を施行した.瘤の内腔を観察すると,瘤壁は全周性に菲薄化し健常組織との境界は明瞭であった.瘤を切除し,再建のため切り開いた大伏在静脈を3分割して縫合し,1枚の大判の静脈パッチを作成した.これを円筒状に吻合して置換した.術後経過は良好で再建部の閉塞や血栓形成は認めていない.外腸骨静脈の静脈性血管瘤は破裂や血栓症のリスクがあるため慎重に治療方針を決定する必要がある.

  • 富永 磨, 内野 学, 川上 敦司, 北岡 秀太, 岩井 淳, 内田 直里
    2026 年35 巻4 号 p. 187-192
    発行日: 2026/08/11
    公開日: 2026/08/11
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は66歳男性.6年前に急性大動脈解離に対して上行弓部人工血管置換術およびelephant trunk挿入術を施行された.その後,吻合部仮性大動脈瘤に対して二度の再開胸での外科的治療歴を有していた.褐色尿を主訴に他院を受診し,血液検査にてHb 8.6 g/dL,LDH 4648 IU/L,T-Bil 6.83 mg/dLと黄疸を伴う溶血性貧血を認めた.造影CTでは人工血管吻合部に仮性大動脈瘤を形成し,仮性大動脈瘤による外的圧排から人工血管およびステントグラフトの狭窄を認めた.以上より構造的異常に起因する溶血性貧血と診断し,吻合部を含む基部置換術および上行弓部人工血管置換術を施行した.術後,溶血所見は速やかに改善した.心臓血管外科術後に原因不明の溶血性貧血を認めた場合,弁関連病変や血液疾患のみならず,吻合部仮性大動脈瘤などの血管構造異常による外的圧排も重要な鑑別として考慮すべきことが推察された.

  • 中藤 篤志, 原田 剛佑, 溝口 高弘, 竹内 由利子, 末廣 晃太郎, 濱野 公一
    2026 年35 巻4 号 p. 193-197
    発行日: 2026/08/11
    公開日: 2026/08/11
    ジャーナル オープンアクセス

    今回われわれは破裂部位の特定が困難であった両側内腸骨動脈瘤に対し緊急EVARを施行し救命し得たので報告する.症例は80歳の男性.突然の下腹部痛を自覚し,救急要請した.前医へ救急搬送され,CT検査で内腸骨動脈瘤破裂と診断されたため,当院へ救急搬送された.47 mm径の左内腸骨動脈瘤,25 mm径の右内腸骨動脈瘤を認め,腎動脈レベルから骨盤内に後腹膜血腫を認めたが,破裂部位の特定は困難であった.両側内腸骨動脈瘤は起始部から上下臀動脈分岐部まで及んでおり,緊急で両側の上下臀動脈塞栓とEVARを施行する方針とした.まず,右側より左上下臀動脈を塞栓後,左側より左総腸骨動脈から左外腸骨動脈にExcluder legを留置し,右側から瘤内に残したカテーテルよりNBCAで瘤内を塞栓した.右内腸骨動脈瘤にも同様の手技を施行した.術後経過良好で,術後9日で退院となった.半年経過時点で瘤は拡大なく,臀筋跛行は認めずに経過している.

  • 鈴木 寛俊, 西巻 博, 蛭間 弘光, 富本 大潤, 八木橋 国博, 小林 俊也
    2026 年35 巻4 号 p. 199-203
    発行日: 2026/08/11
    公開日: 2026/08/11
    ジャーナル オープンアクセス

    遺残坐骨動脈は胎生初期の坐骨動脈の遺残であり稀な疾患である.瘤化したものは血栓閉塞をきたしやすく治療の適応である.症例は71歳,女性.偶発的に遺残坐骨動脈瘤を認めた.血栓形成を認めておりステントグラフト留置術を施行する方針とした.瘤の遠位部よりVIABAHNを留置,続いて同規格のVIABAHNをオーバーラップし留置した.オーバーラップした部分が1 cmであり同部分にVIABAHNを追加した.術後はバイアスピリンとクロピドグレルの2剤による抗血小板治療を行い,術後2年で人工血管内に血栓や狭窄は認めていない.遺残坐骨動脈瘤の治療は血管内治療が挙げられ,血行再建を伴う観血的治療と比べ低侵襲であり近年は主な治療法として検討されている.遺残坐骨動脈瘤に対してのステントグラフトは周囲組織からの外力を受けやすく開存率に関しての長期成績の報告が乏しく,治療成績の検討が必要である.

  • 廣岡 茂樹, 阪西 通夫, 外田 洋孝, 折田 博之
    2026 年35 巻4 号 p. 213-217
    発行日: 2026/08/26
    公開日: 2026/08/26
    ジャーナル オープンアクセス

    後方ナットクラッカー現象は,左腎静脈が腹部大動脈と脊椎の間を走行する解剖学的走行異常であり,この走行異常には,後大動脈左腎静脈および大動脈周囲左腎静脈が含まれる.これらの解剖学的異常により左腎動脈と下大静脈の間に圧較差が生じ,腎静脈うっ血や骨盤内静脈うっ血などの症状を呈した場合,後方ナットクラッカー症候群と定義される.今回,後大動脈左腎静脈および大動脈周囲左腎静脈に起因する後方ナットクラッカー症候群の2例を経験した.各症例について画像所見を提示し,米国静脈リンパ学会が提唱する骨盤静脈疾患に対するSVP分類を適用し,若干の文献的考察を加えて報告する.

  • 梅原 伸大, 滝口 信, 鈴木 千穂
    2026 年35 巻4 号 p. 219-224
    発行日: 2026/08/26
    公開日: 2026/08/26
    ジャーナル オープンアクセス

    遺残坐骨動脈は胎生初期の下肢主要血管である坐骨動脈が退化せず遺残したまれな先天性異常である.今回,われわれは右下肢痛にて発見され1年後に急速に拡大した右遺残坐骨動脈瘤の1例を経験したので報告する.症例は73歳女性.右下肢痛を主訴に当院受診.CTにて右遺残坐骨動脈を認めたが,軽度の拡張を認めるのみであった.右下腿末梢の狭窄病変を認めたため,内服加療にて経過をみた.症状改善したが,1年後のCTにて右遺残坐骨動脈瘤径が15 mmから32 mmと拡大を認め当科紹介.手術は右総大腿–膝上膝窩動脈バイパス術(ePTFE)および遺残動脈瘤空置結紮術を行った.術後経過良好で術後のCTでは遺残坐骨動脈瘤の血栓化を得ることができた.

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