日本血管外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-767X
Print ISSN : 0918-6778
原著
TRISS法による外傷重症度分類からみた外傷性胸部大動脈損傷の外科治療成績
渡辺 健一谷口 哲小田桐 聡山内 早苗大徳 和之皆川 正仁福井 康三鈴木 保之福田 幾夫河野 元嗣
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2009 年 18 巻 3 号 p. 413-420

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抄録

【背景】外傷性胸部大動脈損傷は比較的高い死亡率を有しているが,本邦における一施設での経験数は少なく,治療方針の決定に関して定まった方向性はなく治療が行われているのが現状である.さらに本症は出血性合併症,他臓器損傷を有していることが多く,治療の優先順位の決定が,体外循環使用の適否,ひいては手術成績に大きく影響する.今回われわれは手術施行症例について,多発外傷の重症度評価によるリスクの評価を行い,手術成績を比較しその妥当性を検討した.【対象・方法】1985年から2006年までに手術を行った外傷性胸部大動脈損傷14例を,他臓器損傷,合併損傷の観点から後方視的に検討した.多発外傷の重症度はAbbreviated injury score(AIS-90)にそって数値化し,Trauma Injury Severity Score(TRISS)法による予測生存率(Probability of survival; Ps)を計算した.年齢は16~61歳(平均36 ± 17歳),性別は男12例,女 2 例であった.合併外傷は頭頸部が 3 例,顔面が 3 例,腹部が 6 例,四肢骨盤が 7 例,体表は 1 例であった.予測救命率は55~97.5%(0.89 ± 0.03)であった.これをGroup I(Ps < 80%),Group II(80 ≤ Ps < 95%),Group III(Ps ≥ 95%)に分け,手術成績と比較した.【結果】緊急手術 / 待機手術の症例はそれぞれGroup I:1 / 2,Group II:2 / 3,Group III:5 / 1 であった.手術はGroup IIでステントグラフト内挿術が 1 例,Group II,IIIでそれぞれ 1 例ずつ直接縫合を施行し,その他の11例は人工血管置換を施行した.単純遮断が 2 例,大腿動静脈からの補助循環が 9 例,左心バイパスが 1 例であった.循環停止を 2 例,選択的脳環流を 2 例に併用した.これら14例中,在院死亡は 1 例のみであった.術前より軸索損傷を認めた症例では術後も不全麻痺が残存し,術後 1 例にICU症候群を合併したが改善した.【結論】外傷性胸部大動脈損傷に対しては他臓器損傷の重傷度をきちんと評価し治療方針を決定する必要がある.リスクが高い症例にはステントグラフト内挿術も選択されるべきである.

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