2013 年 22 巻 3 号 p. 645-648
要 旨:腹部大動脈瘤人工血管置換術後の仮性瘤腸管瘻は比較的稀である.症例は83歳男性.腹部大動脈瘤人工血管置換術後の経過観察中にタール便を認め,上部消化管内視鏡で十二指腸水平脚遠位に粘膜下腫瘍様の膨隆とその頂部に新鮮血栓を認めた.造影CTで大動脈腸管瘻を形成している可能性のある所見を認め,緊急手術となった.開腹所見は,遺残した大動脈瘤壁が仮性瘤を形成し,トライツ靭帯を超えたすぐ肛門側の空腸と強固に癒着し仮性瘤空腸瘻を形成していた.人工血管と空腸との直接の癒着,瘻孔は認めなかった.仮性瘤空腸瘻を一塊にして切除した.人工血管周囲には肉眼的,顕微鏡的にも感染所見を認めず,腹腔洗浄ののち,大網充填を行い大動脈瘤壁で被覆した.術後経過は良好で第17病日に退院となった.二次性大動脈腸管瘻で明らかな感染所見を認めない場合,瘻孔閉鎖と人工血管周囲への大網充填で治療可能な場合もある.