抄録
要旨:【目的】腸骨動脈領域においては血管内治療が盛んに行われている一方で,本邦における腹部大動脈病変に対する血管内治療の報告例は少ない.よって,当科で施行した限局性腹部大動脈閉塞性疾患に対する血管内治療,とくにステント留置術を施行した症例について検討した.【方法】当科で施行した腹部大動脈閉塞性疾患に対し,ステント留置術を施行した8 例について検討した.症例は男性が3 例,女性が5 例で,年齢は46〜84 歳(平均68 歳)であった.Fontaine 分類でII 度が3 例,III 度が3 例,IV 度が2 例であった.大動脈病変の形態はTASC II B 型病変が3 例,D 型病変が5 例であった.術前の併存疾患として糖尿病を6 例に,透析例を2 例に認めた.大動脈病変の狭窄率は平均67%(55〜100%)であった.治療は7 例ではバルーン拡張型ステントを,1 例では自己拡張型ステントを留置し,全例で良好な拡張を得られた.しかしFontaine IV 度の1 例には鼠径靱帯以下のバイパス術も追加したが,重症虚血による壊疽のため下腿切断を要した.血管内治療に伴う合併症はいずれも認められなかった.【結論】手術に際しハイリスクの症例に対しては,腹部大動脈閉塞性疾患に対するステント留置術は安全で,かつ有効な治療法であると考える.