抄録
要旨:症例は80 歳男性.結核性胸膜炎と慢性閉塞性肺疾患の既往があった.8 年前に腹部大動脈瘤に対して人工血管置換術を施行されていた.同時期に遠位弓部大動脈瘤を指摘されていたが経過観察されていた.突然の背部痛を主訴に救急搬送され,造影CT 検査で75 mm の遠位弓部大動脈瘤と,Stanford B型大動脈解離を認めた.また冠動脈造影検査で右冠動脈の慢性完全閉塞を認めた.急性大動脈解離に対して保存的治療を行ったが,経過中に疼痛の持続と解離の進展を認めたため手術治療が必要と判断した.開胸手術は侵襲が大きいためステントグラフト内挿術を選択した.中枢側のlanding zone の確保のために2 debranch とchimney graft で頸部分枝の血行再建を行った後,上行大動脈から下行大動脈までステントグラフトを挿入して動脈瘤治療と大動脈解離のエントリー閉鎖を一期的に行った.術後は症状が消失し,造影CT で動脈瘤の血栓化と下行大動脈の真腔の拡大を認めた.術後14 日目に独歩退院した.高齢者の増加に伴い大動脈瘤と大動脈解離の合併例は増加しており,ステントグラフト内挿術は有効な選択肢の一つであると考えられた.