抄録
要旨:外傷性大腿動脈損傷は医原性の報告が多く,シカによる外傷性動脈損傷の報告は極めて少ない.症例は74 歳女性.散歩中ニホンカモシカと出会い,カモシカの角で左大腿部を突かれて受傷した.近医を受診しCT を施行すると左浅大腿動脈が閉塞しており当科へ紹介入院となった.受診時,大腿部は内側と外側に2 カ所ずつ杙創を認めたが止血していた.また,左鼠径部で大腿動脈の拍動を触知するが,足背動脈と後脛骨動脈はともにDoppler で聴取できなかった.以上から外傷性大腿動脈損傷の診断で緊急手術を施行した.浅大腿動脈はカモシカの角により貫通していたが血栓により止血されていた.同部位を切除後,浅大腿動脈を端々吻合して手術を終了した.術後はリンパ漏を認め入院が長期となったが,リンパ漏が減少した術後22 日目に独歩退院した.カモシカによる外傷性浅大腿動脈損傷は稀であるが感染を起こすことなく経過し良好な結果を得た.