抄録
従属栄養細菌を主とした有機物生分解と植物プランクトンの1次生産は湖水中の生物的炭素収支を構成する主な要因である。本研究では概念的食物網モデルを用いてそれら生物的な炭素収支に対する流域負荷の影響を考察した。モデルの生物的炭素収支は流入炭素濃度の増減による細菌基質C:P比に応じて複雑に変化し, それにより水中TOCの蓄積されやすさが異なることが示された。貧栄養段階ではリン流入削減により食物網全体が不活性化し水中TOCが増加することと, 富栄養では水中TOC減少に対する炭素流入削減の効果が小さいことが示唆された。また本モデルを琵琶湖に適用したところ炭素およびリン流入濃度変化は琵琶湖の生物的炭素収支にほぼ影響を与えておらず, また湖水中易分解性TOCの減少はリン流入削減によるものであることが示唆された。モデル結果と実測のTOC変化傾向の違いは, 難分解性炭素の流入や湖内生成など, 易分解なもの以外による湖内炭素蓄積を原因として生じたと考えられる。