内湾海域の生態系を維持するために最低限必要な, 全窒素TN・全リンTP濃度を現地実験によって調べた。実験では, TNの高い大阪湾北東部から低い播磨灘にかけて, 栄養塩濃度勾配に沿って7測点を設け, アサリおよび付着生物群集の栄養状態・成長速度と, TNとの関係を調べた。また, 実験海域の一次生産量分布を計算で求めた。調査海域の一次生産量は, TNに強く比例する海域と, 一次生産量の低い外海の特性を持った海域に明瞭に分かれ, その境界はTN=0.2 mg L-1であった。アサリの軟体部湿重量はTNと強い正の相関があった。アサリの栄養状態は, TN < 0.3 mg L-1の海域では低く, 気象擾乱等で減耗が起きやすい状態であった。付着板上の生物量は, 海域のTNと高い相関があった。海域の年平均TNとTPの間には強い相関関係があり, TN=0.2 mg L-1はTP=0.029 mg L-1に相当した。