2023 年 46 巻 6 号 p. 163-171
1980年代以降の瀬戸内海における溶存無機窒素 (DIN) とリン (DIP) 濃度の時空間分布と植物プランクトンの制限栄養塩の変化について, クラスタリングした海域に対して解析した。DIN濃度は全海域で低下した一方で, DIP濃度は陸域影響の強い海域および外洋影響が強い海域との遷移海域で低下したが, これらの海域は瀬戸内海全面積の約2割である。一方で, 全体の8割を占める外洋影響の強い海域では有意な低下は観察されなかった。陸域影響の強い海域でのDIN濃度の低下率は過去40年間の窒素負荷削減率よりも大きく, DIP濃度の低下率は負荷削減率と同等であった。DIN濃度の低下は外洋影響の強い海域でも見られ, 低下率は3割から4割程度に達していた。陸域影響の強い海域はリン制限であり, 外洋影響の強い海域は窒素制限の面積割合が高かった。DIN濃度が全海域で低下したことに伴い, 外洋影響の強い海域では, 秋季から冬季に窒素制限海域の面積比が大きくなった。