Batillaria属の巻貝は日本の干潟に生息する代表的なグループである。本研究では、東京湾の葛西沖干潟・盤洲干潟と大分県の中津干潟において、直達発生を行う巻貝ホソウミニナB. cumingiiと底質の採集を行い、底質とホソウミニナ軟体組織中の金属濃度を測定した。東京湾の葛西沖干潟の底質中のCr, Co, Ni, Cuの濃度は盤洲干潟と中津干潟よりも高かった。また、盤洲干潟と中津干潟において、底質中のCd濃度は盤洲干潟のほうが低かったが、ホソウミニナ組織中のCd濃度は盤洲干潟のほうが高かった。さらに、Cd-chelexアッセイにより算出したホソウミニナ体内のメタロチオネイン様タンパク質(MTLPs)の発現量では、盤洲干潟のホソウミニナのほうがMTLPsの発現量が高かった。今回の結果では、何らかの環境ストレスにより巻貝の体内でメタロチオネインが発現していると考えられ、底質と巻貝体内中の金属濃度間において直接的な相関はみられなかった。