日本水処理生物学会誌
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MAR-FISH法および従来評価法による生物学的リン除去プロセスの運転開始時におけるリン蓄積細菌群の活性評価
近藤 貴志蛯江 美孝野田 尚宏岩見 徳雄常田 聡稲森 悠平
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2007 年 43 巻 1 号 p. 19-29

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抄録

本研究では、生物学的リン除去プロセス(EBPR)の立ち上がり段階におけるポリリン酸蓄積細菌(PAOs)の指標の変動について評価すると共に、PAOsの基質資化状態を新規評価手法であるMAR-FISH法により評価した。リン除去性能が良好であるEBPR汚泥およびリン除去性能を低下させたnon-EBPR汚泥を調整し、これらを4種の混合比で混合し、酢酸を炭素源とした人工排水を流入させた回分式活性汚泥リアクター(SBR)で運転した。リン除去性能の向上期間において、従来評価である、リン除去ポテンシャルとしての活性汚泥内リン含有率、基質資化状態の指標としての嫌気工程時におけるリン放出量およびPAOsの存在量としてのRhodocyclus属近縁種のPAOs(RPAO)の個体数密度について解析した結果、運転開始後、直ちにRPAOの個体数増加が起こり、その後、汚泥内リン含有率が増大することが確認され、これは、RPAOの生態学的な変化によるものと考えられた。嫌気工程におけるリン放出量においても他の指標と異なる傾向が認められ、特にnon-EBPR汚泥を混合した系においては、リン含有率、RPAO個体数密度ともに高い値を示していたにも関わらず、リン放出量は低い状態であった。このことから、嫌気工程においてPAOs以外の微生物による酢酸資化により、PAOsの利用可能な酢酸が減少したことが考えられた。そこで、PAOsおよびリアクター内に存在することが確認されたα-Proteobacteriaに属するG-bacteriaおよびRPAOの嫌気工程における酢酸資化状態をMAR-FISH法により評価した結果、多くのRPAOが酢酸を資化することが確認された一方で、一部のRPAOは基質を資化しておらず、また、G-bacteriaが酢酸を資化していることが確認された。このことから、他の微生物との基質資化競合関係により、嫌気工程におけるPAOsのリン放出が減少していることが示唆された。以上の結果から、従来の指標においては、それぞれの指標がそれぞれEBPRの生化学モデルにおける異なる代謝を指標としているために、指標間において結果が異なることが確認でき、グリコーゲン蓄積細菌(GAOs)やG-bacteria、脱窒細菌などの他の微生物の基質資化活性状態も各指標の結果に影響を及ぼすことが確認された。MAR-FISH法は、放射性同位体を用いることで標的微生物の基質資化状態を可視化することができ、EBPRの生化学モデルに基づく実際の代謝活性を評価することが可能である。しかしながら、未同定のPAOsやGAOs、G-bacteriaが存在することから、今後、更なる系統学的同定、生態学的同定が必要である。

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© 2007 日本水処理生物学会
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