2023 年 59 巻 4 号 p. 49-57
珪藻は緑藻や藍藻と異なり必須脂肪酸として扱われる20:5ω3(EPA)を生産する藻類である。EPAは動物の生存や成長に重要な物質であるため,水界生態系において動物プランクトンや水生動物の餌として珪藻は重要な役割を担っている。一方で,近年シリカ欠損仮説が提唱され,河川でのケイ素の流出が減少していることなども報告されている。しかし,ケイ素濃度の低下が珪藻の増殖およびEPAの生産に及ぼす影響を,個体群および個体レベルの両面から評価した研究は見当たらない。
そこで本研究では,淡水性珪藻Nitzschia paleaを用いてケイ素濃度を4段階(5から30 mg/L)に設定した回分培養を行ない,水環境中のケイ素濃度が珪藻の増殖及びEPAの生産に与える影響を解析した。その結果,対数増殖期の比増殖速度に有意な差は見られなかったが,定常期での個体群密度およびバイオマス(乾燥重量)生産量とケイ素濃度の間には正の相関が確認された。また,1細胞当たりの乾燥重量および殻長は,ケイ素濃度の最も低い4.93 mg/Lで他の系より有意に大きかった。珪藻個体群のEPA生産量はケイ素濃度29.6 mg/Lがケイ素濃度4.93 mg/Lに比べて有意に高かった。また,1細胞当たりのEPA含有量はケイ素濃度4.93 mg/Lが他の系に比べて有意に高かった。したがって,ケイ素濃度が低い環境では,殻長の大きな珪藻類が低密度で分布する傾向になるため,消費者の餌環境が悪化することが示唆された。