抄録
我々は糖尿病および糖尿病合併症に対する漢方薬の有用性について20年以上動物実験的,臨床的に検討を加えてきたので紹介する。
1. 糖尿病神経障害に対する牛車腎気丸の効果 糖尿病神経障害に対する牛車腎気丸の効果をメコバラミンと比較した。しびれに対し,前者の改善率が後者より有意に大であった。この成績は牛車腎気丸が糖尿病神経障害の治療に有用であることを示唆している。
2. インスリン抵抗性に対する漢方薬の効果
1) 動物実験では,STZ糖尿病ラットに対し,牛車腎気丸,桂枝加朮附湯およびその構成生薬である桂皮を投与したところ,インスリン感受性は有意に改善した。また,そのメカニズムとして一酸化窒素(NO)とインスリンシグナル伝達系の関与が示唆された。
2) 臨床的研究では,2型糖尿病患者に対し,牛車腎気丸を7.5 g/日を 1ヶ月間投与したところHOMA-R(インスリン抵抗性)は有意に改善した。正常血糖クランプ法でも検討を加えたが,高インスリン注入量クランプにて有意に増大した。この成績は牛車腎気丸が2型糖尿病患者のインスリン抵抗性を改善する可能性を示唆している。
以上,我々の検討成績は漢方薬が糖尿病合併症の予防・治療だけでなく,糖尿病の予防・治療にも有用である可能性を示唆している。