抄録
不安障害の治療には, 主としてベンゾジアゼピン系抗不安薬や選択的セロトニン再取り込み阻害薬が用いられる場合が多いが, 全ての不安障害に有効というわけではなく, 嘔気などの副作用により十分な量を用いることができない場合がある。 そのため, 新たな不安の治療法として漢方薬に期待が集まっている。
半夏厚朴湯および香蘇散は経験的に不安に用いられる代表的な漢方処方である。 しかし, その作用機序は不明であり, その効果の検証も十分になされてはいない。 今回我々は, マウスを被験体として代表的な不安モデルであるガラス玉隠し行動と高架式十字迷路を用いて, 半夏厚朴湯と香蘇散の抗不安作用について検討した。 その結果, 半夏厚朴湯は 2 つのモデルに対し抗不安様作用を有することを示し, 香蘇散はガラス玉隠し行動のみを抑制することを示した。 このことから, 両漢方処方に抗不安様作用を認めるが, その作用機序は異なることを示唆した。 また, 半夏厚朴湯はベンゾジアゼピン系抗不安薬のジアゼパムと類似の作用機序を有する可能性を, 香蘇散は選択的セロトニン再取り込み阻害薬のフルボキサミンと類似の作用機序を有する可能性を示唆した