抄録
アーユルヴェーダではアリシュタという薬酒が広く利用されている。 日本の薬酒が酒に生薬を浸漬し作られるチンキ剤であるのに対し, アリシュタは生薬の煎液をアルコール発酵させて作られる。 発酵による生薬の成分変化が, チンキ剤にはないアリシュタ独自の効能に寄与していると予想される。 本研究では, アリシュタとチンキ剤の相違点を明らかにすることを目的とし, 生姜, 大棗, ヒハツから製造したアリシュタ及びチンキ剤のピペリン及び [6]-ジンゲロール含量を HPLC により比較した。 アリシュタ中のピペリン含量はチンキ剤より高く14.6 mg/l であり, 製造過程で大きな変化は見られなかった。 一方アリシュタ中の [6]-ジンゲロール含量は11.3 mg/l とチンキ剤の50%以下であり, 製造過程において [6]-ジンゲロールが減少していた。 そこで [6]-ジンゲロールを添加した酵母培養液を LC-MS/MS 分析し, 酵母によるジンゲロールの代謝物を調べた。 その結果, ジンゲロールが酵母により [6]-ショウガオールなど 4 つの化合物に代謝されていることが示唆され, 同様の化合物がアリシュタにも含まれることが明らかになった。