抄録
脊髄小脳変性症患者3名において前向きに, TRH(thyrotropin releasing hormone)の運動性構音障害に対する投与効果を, 各患者毎に聴覚印象評価, コミュニケーションに関する意識調査, 音声検査および音声分析結果に基づき評価し, さらに運動性構音障害の改善機序に検討を加えることを目的とした. 1名で運動性構音障害の著明な改善が自・他党的に認められ, 特に発声機能の改善と構音の明瞭度の改善が著明であった. 一方, 3名の患者に共通して声の高さの変動率の減少と声域の拡大が認められた. TRHによる運動性構音障害の改善には, 発声機能の改善が大きな役割を果たしていると判断された. 発声機能の改善機序として, 主にTRHによる喉頭の筋緊張低下の正常化に伴う協調運動の改善が最も重要であると推定した. TRHが運動性構音障害に著効を示す患者は稀であるが, 本研究のように特にTRHが著効を示した臨床例を通じてTRHの作用機序を検討することは今後も重要である.