抄録
慢性マンガン症の早期診断のためには神経生理学的異常の早期発見が最も有効とされている. 重心動揺計static sensographyをマンガン取扱い者の特殊健診に応用し, 重心動揺の総移動距離(本稿では重心動揺指数postural sway indexと称ぶ)の意義を血中, 尿中マンガン濃度との関連で検討した. マンガン精錬工場に働く年令29-59才(平均47才)の作業員66名(女性1名を含む)を対象として1984年から1989年までの6年間調査を行った. 54名のマンガン曝露作業者は交替勤務制で就労しており, 調査開始の1984年の時点で平均22.6年作業を続けていた. 作業場の気中粉じんおよび気中マンガン濃度は各々0.07-2.74および0.02-0.46mg/m³であった. マンガン曝露者における各指標の平均値は血中マンガン19.1-26.9μg/ℓ [対照値平均17.8(標準偏差5.2)μg/ℓ], 尿中マンガン2.60-4.22μg/g Creat. [対照値幾何平均1.16(幾何標準偏差1.93)μg/g Creat.], 重心動揺指数51.4-94.6 cm/30 sec. [対照値幾何平均59.7(幾何標準偏差1.4)cm/30 sec.]の範囲を変動した. 重心動揺指数と血中および尿中マンガン値との間に有意の相関は認められなかったが, 今後, 既に確立された検査法との組合せにより, 上記の如き簡易な神経生理学的検査法の有用性についてさらに検討すべきものと考える.