Journal of UOEH
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住血吸虫症におけるヒトの水接触行動研究
―その目的, 成果, 今後の課題―
嶋田 雅曉
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1994 年 16 巻 2 号 p. 185-197

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抄録
寄生蠕虫の生存戦略は宿主との戦いではなく, 宿主との交渉である. 寄生蠕虫は宿主が環境そのものであるため, 宿主を殺せない. 熱帯病の原因であるビルハルツ住血吸虫は, このような寄生蠕虫の内でも, ヒトを唯一の宿主とし, 従ってヒトに最も適応して進化してきた. 本疾患の流行地では, 宿主であるヒトが思春期を迎える頃から感染率, 感染強度が急激に下がることが観察される. これは宿主の再生産を妨害しないという点で宿主にとって有利であり, 寄生蠕虫の生存戦略の一環と理解できる. この宿主-寄生体関係を保つためのヒトの側の機構には防御免疫と水接触行動が考えられるが, ケニアにおける研究はヒトの水接触行動が主要な要因であることを示している. ヒトの水接触行動は動物と異なりその文化的背景に依存する. ヒトの文化が宿主-寄生体関係とその進化に大きな影響を与えている例と言えよう. 今後熱帯感染症の研究にはヒトの文化的側面からのアプローチが不可欠である.
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© 1994 産業医科大学
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