この報告において, 著者らはベトナムの炭坑労働者におけるじん肺問題の現状について紹介している. 石炭はベトナムにとって最も重要な輸出品であることから, 近年その産出活動が強化されてきた. しかしながら, 経済発展への強いインセンティブのために, 労働者の健康問題は必ずしも最も重要なものと考えられているわけではない. ベトナムにおける炭坑労働者の労働条件は劣悪であり, 健康保護対策も十分には実行されていない. 情報システムが未整備であるために, 公式統計は実態を過小報告している. じん肺の情報システムを構築するために必要な財政的負担の大きさを考慮すると, 現状を明らかにするための疫学的調査を行うことがもっとも効率的な方法である. また, 疫学的調査を国際協力の枠組みの中で行うことは, 疫学に関する基礎的知識と技術を先進国からベトナムに対して移転するためにも有用であると考えられる.